第9話

七話
33
2020/07/24 02:33
 ハッと気がついた時には、ミホは不安げな表情でこちらを見ていた。演技が終わったのにも気付かず、魅入っていたらしい。

 それ程までに、ミホの演技は素晴らしかった。相手がいないと言うのに、世界観の全てが見えて来る程。


「ねぇ、ちゃんと見てた?」


 訝しむようにこちらを見ているミホに、食い気味で答えてしまう。イメージは、既に固まっていた。


「見てた!夕暮れにしよう、絶対!」


 あまりに即答し過ぎたのか、ミホは目を細め、所謂『ジト目』になって腕を組む。


「なんか適当じゃない?夕暮れってさ、今の空そのまんまじゃん」

「だからだよ。もう、夕暮れにしか見えなくなった。夕暮れじゃなきゃ、やだ」


 もはや僕は、駄々をこねる子供だった。しかしみっともなくても構わないとさえ思う。

 とにかく、夕暮れをバックにしたミホの演技を、皆に見せたくて堪らなかったのだ。

 その熱意が伝わったのか、ミホは渋々と言った表情になる。不安げながらも頷くと、パッと表情を切り替えて。


「ま、ミヤタツが言うなら間違いないか!よし、夕暮れで決定!」


 と、快活に笑うのだった。そのお達しが何より嬉しくて、僕は思わず『よっしゃ!』とガッツポーズを取った。

 そんな僕を見たミホが、またケラケラと笑う。

 それが余りにも眩しく輝いて見えたのは、西日が差し込んでいるからに違いない。

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