──────私、嘘を吐いたのよ。
あの人が好きだなんて、嘘。
嘘よ、当たり前じゃない。
あの人になんて、興味も無かったわ。
ちょっと評判が良かったから、嘘つくには最適だったの。
だから、なんにも悔しくなんて無いわ。
えぇ、本当よ。
寂しくなんて無い。本当だってば。
なによ、その顔。
私が馬鹿だって言いたいんでしょ?
わかってるわよ、彼の笑顔が嘘だってことくらい。
わかってるわよ、彼が初めからあの子が好きだったって。
だから、嘘ついたんじゃない。
好きなんかじゃ、ないって。
『それが真実だったら、僕らは幸せでしたか』
……何よそれ。どういう意味よ。
『意外とそうでもないのではないかと、思うのです』
前を向けってこと?馬鹿馬鹿しい。
『むしろ、嘘だったからこそ』
……こそ、何よ。
『僕らは幸せになれるのです』
ふざけないで。私今、とってもみじめだわ。
『そういう事に、してみませんか』
うるさいわよ、もう放っておいて。あっち行ってよ。
『そういう事に、させてくれませんか』
……して、くれるってこと?
『僕は、信用なりませんか』
そうね、だって貴方。
いつも、空ばっかり見てたじゃない。
信頼できるまで、そばにいて。
それが、嘘だったとしても──────
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。