第58話

伍拾捌
606
2022/03/04 10:42
「準備は良い?」

『一寸待って。後装飾品アクセサリーだけ』






「やぁ,太宰君」






「森さん」

「珍しい格好をしているね」

「うん。」

「如何だい?君が望んだ、久々の二人きりの任務だよ」

「……楽しいよ。彼女は、私と一緒だ」

「…」 

「……あなたちゃんと此処に来た時から。」

「…」

「彼女は本当に,私が唯一勝てない人だ」

「…そうだね」

「心の内が見えない」

「…彼女は不思議な女性だからね。もしかしたら、ふとした時に死にたく成ったりしてね」

「あなたちゃんはそんな事思わないよ」

「そうか。」

「でも…」

「?」

「彼女は私と似た処が有る。まぁ何にでも、どんな気持ちにもなれると云うべきかな」

「…」

「泣くのも笑うのも、生きるのも死ぬのも全て彼女の演技なのさ。御姫様は、考える事が判らないや」

「怖いねぇ…」




『…治、出来たよ』




「…え?」

「可愛いー!其の姿のまま私と心中しない ⁉︎」

『しないよ』

「むー。ケチ」

「太宰君、此れは如何云う事?」

「え,こう云う事だけど?」

「厭,如何してあなたちゃんが洋装服を?」

「此れから乗り込むんだ。奴等の舞踏会にね」





闇組織が今日、大きな舞踏会を開く。

日本で舞踏会とか珍しいが、フランス出身者である為文化主義の人物だとか。

舞踏会に乗り込み、情報を盗む。

彼女の初めての任務も似たような潜入捜索だった。

彼女からしてみれば慣れたものだろう。





「成る程。頑張ってね」

「どうも」

『行ってきます』
















「わぁ,凄い人だ。」

『逸れそう……』

「捕まるかい?」

『有難う。』





闇組織の舞踏会へ。

着いた私達は此れから、闇組織の潜入捜索を開始する。





「おさらいしよう。君は首領さんに色仕掛けで別室に移させる。私が其処に居るから縛るんだ」

『判った。』

「矢っ張り、女性が居た方がこう云う任務はやり易い」

『私が必要って此れの事?』

「厭、そうじゃないよ。」

『なんだ。』

「……出てきた」

『…』

「…行けるかい?」

『良いよ。』





冷たいシャンパンを一気に飲み干して、組織の首領と思われる男の元へ。

相変わらず色仕掛けが得意だ。

男も鼻の下を伸ばしている。

潜入捜索の才があるのはポートマフィアにとって嬉しい事だが、矢っ張り嫉妬するなぁ






「…よし。そろそろ別室へ行こうか」















「はぁ,手強かったね」

『うん。力が強かった。』

「だからって,相手の頭蓋骨を破壊するくらい蹴り込んじゃ駄目だよ」

『はぁい』





別室へ移動し、誘惑した首領に情報を吐かせ

任務は完了。

此の組織が潰れるのも、時間の問題だ。

私達は舞踏会を開くタワーの最上階にいる。

仕事終わりだ。少しは休憩があったっていいじゃないか。






「…見てよ。綺麗な夜景だ」

『…そうだね』





手摺のような柵に手を置いて、夜景を堪能する彼女は

とても美しい。

悪魔の元に生まれた美女とは、彼女の事である。






「……あなたちゃん」

『何?』

「任務に付き合ってくれた御礼に贈物プレゼントだ。受け取ってくれ」

『…?』






赤いリボンの似合う白い箱を、彼女に手渡した。






「…」

『…此れは…口紅?』

「そう。君に合う色だろう?」

『…綺麗な赤色…』

「如何?本当に合っているかな?」

『付けていい?』

「…嗚呼。」






箱から口紅を取り出し、自分の唇に口紅を滑らせると

上品且つ悪女のような、ミステリアスな雰囲気にがらりと変わった。






「…うん。ぴったりだ」

『……有難う。世界で私だけの口紅なんでしょ?』

「…矢張り、君には隠し事は出来ないな」

『…一酸化炭素と同じ症状を引き起こす口紅か。あの本の話と同じだね』

「女性は自分の口に口紅を塗った。ならば、私が塗ろうかと思ったんだけどね。余りにも君に似合いすぎるような色を作ってしまった」

『だから、私につけて欲しかった』

「そうさ。」

『…お互い、愛し合う二人が死んだ。』

「…」

『治は、私を愛してるの?』

「…嗚呼。大好きだ。愛してる」

『…なら、一緒に死のう』

「…」

『此処で。大好きなヨコハマの夜景に包まれて、私を大好きな治と接吻して死ねば……幸せだよ』

「一つ聞こう。君は、私の事が好きなのかい?」






『………好きだよ』






「…なら、死のうか」

『此処で飛び降りて、真っ逆さまに落ちていく最中に接吻キスをしよう』

「…」

『すっごく素敵だと思うの。如何?』

「……大好きな人と死ねる日が来るとは、思わなかったなぁ…」

『準備は良い?』

「…嗚呼、何時でも良いよ」






二人で手を繋ぎ、足を一歩踏み出して

真っ逆さまに落ちていった。






『…すごい風。落ちた処の高度が高かったな…』

「全くだ。此処のビルは確か百二十四階建てだったね」

『其りゃ高い』

「…あなたちゃん…」

『…』

「貴女様は、私を愛して下さいますか?」

『………えぇ、此の先も。此れからも。』

「…愛してる。」

『……愛してる。』






落ちていく浮遊感を感じながら抱き合い、其の紅く映える唇に接吻キスをした。

此れで私達は死ぬ。

私達は、二人っきりになる。

孤独だよ、とても。

けど君と一緒なら何も怖くないし、君さえ居れば其れでいい。

優しい目を見ながら、ゆっくり目を閉じる。

さて、そろそろ落ちるね。
















『……………………………ほらね、私は死ねない』

「…」

『だって、変な人だから』

「…」

『……治は、本当に死んじゃったみたいだね』

「…」

『……早く起きて。本部に帰ろう』

「…」

『織田作の処でも良いから、帰ろうよ』

「…」





矢張り君は、殺せないなぁ

殺したくないけど、君のお願いだもの

私が初めて出来た好意の女性だ

願いを叶えてあげたいけど






『…ねぇ、治…』

「…」

『治。』

「……はいはい、起きるよ」

『…』

「地面に着くのと同時に、足をクッション代わりにして私と自分自身を守った…」

『…』

「初めから死ぬ気なんて…無いクセに…」

『…当たり前。今死んだら、私が生きる意味が無いから』






……其れはそうかもね。









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