第4話

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2021/01/10 12:21
「はぁ…腕が痛い…」


また自殺に失敗した…

何か無いのかなー…。



カランッ



「!」


缶が転がる様な音が聞こえて,ふと横を見る

すると白いシャツを着た女の子が倒れて居た。


「大丈夫かい…⁉︎」


近寄って体を揺さぶっても,反応が無い。


「……亡くなってる」


僕よりも歳は小さい…

恐らく十歳程。


「…」

『…っ』

「!」



腕が少し動くのを見た後,女の子は目を開いて起き上がった。



「⁉︎」

『…』

「大丈夫かい?」

『……誰…?』


痛めつける様な目…

まるで感情が無い。


「……君,名前は?」

『…………知らない。そんなの…無い』

「如何して此処に居たんだい?」
『…体全部痛いのと…お腹空いて…』


弱々しく応えながら僕に怯える女の子。


「……僕は太宰治。ポートマフィアの人間さ」

『…』

「ポートマフィアを知って居るのかい?」


此れで少し判った。

ポートマフィア,と云った瞬間に更に目の色を変えた。

此の子はポートマフィアに何か関係が有る人物だ



「…そんなに怯えないでくれ。」


ギュ。


『!…』

「君はポートマフィアに何か関係が有る。そうだね?」

『……ん。』

「其のポートマフィアの人間を信じてくれ,なんて無理な話かもしれないが……僕と一緒に来てくれないか?」

『何処に…?』

「ポートマフィアの本部さ。其処の偉い人が御医者さんでね,君の体を治して貰おう」

『…』

「お腹も減って居るだろうし,ちゃんとした服に着替えないとね」

『…っ』

「さぁ,行こう」

『如何して…?』

「え?」

『如何して私を助けるの?』

「…」

『私を騙すの…?』

「…君は一体,今までどんな人生を送って来たんだい…?」


人を信用する事も躊躇う…。


「…………大丈夫さ」

『…』

「じゃあ一つ教えてあげよう」

『何…?』

「君は此れから,僕以外の事を信用しない。でも其れが僕の同意の判断なら信じても良い。」

『…』

「"騙される"と云うのはね…仲間が多ければ多い程裏切られるものさ。だから,一人に絞って御覧?」

『……本当に…大丈夫…?』

「勿論だ。」

『…………判った』

「其れじゃあ行こう,立てるかい?」

『…』

「…なら僕の背中に乗って帰ろう」




僕は彼女を背負って,腕の事など知らずに森さんと処へ。









「首領!」


「何だい?」

「太宰様…が…童女を連れて来ました!」

「…」



「やっほー,森さん」

『…』

「太宰君,其れは私への贈り物かい?」

「流石に其れは無いよ。」

「なぁんだ」

「此の子を診て欲しいんだ」

「……其の子は…」

「矢っ張り,ポートマフィアに関係の有る子なんだね」

「………」

「誰なの?」

「……此れは余り,他には云いたく無い件だったんだけどね。」

「隠したりしないでね」

「…其の子はポートマフィアにとって,"条件の揃い過ぎた"子だ」

「条件の…揃い過ぎた?」

「一度勧誘しようと思った事も有る,其の子の名はあなた。親が偽名で,苗字は判らないがね」

「…あなた」

『…』

「其の此の親は,ポートマフィアの先代の首領の幹部同士で,先代も其の子が産まれて間無しの頃,良く遊んで居た」

「へぇ…」

「だが,先代は其の二人を解雇した。」

「!…」

「理由は,単なる気分転換」

「…は?」

「私も其の姿を見た。そして,殺された。」

「…」

「あなたちゃんを残してね。寧ろ,生かして彼女に屈辱を味わさせようとした」

「如何して…」

「先代も破綻者だったからね,私も意味が判らない」

「…」

「私は彼女が組織を追われる日々を,止めて欲しいと先代に頼んだが,勿論そんな事は許されず…」

「…」

「だから私が首領になった時,彼女の行方を探して勧誘しようとした。」

「出来なかった理由は?」

「………彼女の両親は異能力者で,其の子は母親の方を受け継いだらしい。名は,"女狐ノ罠括リ"」

「其れって…!」

「嗚呼。ポートマフィア史上最強と云われた異能力…」

「…確かに,都合が良過ぎる」

「主に障壁や防壁の力を出し,自身や仲間を守るにはもってこいの異能。」

「其処まで珍しい異能では無いけど,使い方次第では"最強"…だったね」

「今の我々は守備の力が無い。其の分には良いが,だからと云って使い物にするのは良く無い。私は先代とは違う」

「…」

「太宰君,君を信じよう。」

「何を?」

「君は,彼女を此のポートマフィアに入れるべきだと思うか?」

「…。」


「…あなたちゃん」

『…』

「あなたちゃん?」

『…』

「返事して。起きてる?」

『…』

「…太宰君,彼女は眠って居るよ。」

「あらら…」

「気持ち良さそうに,ぐっすりだ」

『スースー…』

「…」

「如何思う?」

「……………入れて。」

「…判った。」










夜遅く。

あなたちゃんが眠ってから四時間

僕はずっと傍に居て,手を握って居た。

先刻,森さんに診察して貰った時…


「…命に支障は無いが,酷いねぇ…」

「何が?」

「見るかい?」

「?」


彼女の背中には,無数の傷が付いて居た。


「……此れは,一生傷…」

「幅や付き方から見て……異能のコントロールとかでの傷じゃ無いかな」

「彼女は密かに,自分の異能をコントロールしようとして居たと云うの?」

「そう云う事だ」


…君は,生きようと努力して居たの?

其れとも闘う為に?




『………ん。』



「御早う,あなたちゃん」

『治…』

「良く眠って居たね。体は一応全身打撲,暫く痛い日々が続くらしい。今は安静にしといてね」

『……如何して,助けてくれたの?』

「…」

『私…昔の事,憶えて無い。でも男の人達に追われて居たのは憶えてる…。其れが日常だったから』

「…生きて居て,辛いと思った事有る?」

『……如何して辛いと思うの?』

「?…」

『生きるなんて…別に…。』

「…君は僕と,少し似て居るね」

『そう…?』

「うん。けど,生きる事を君は忘れちゃ駄目だよ」

『如何して…?』

「…」


彼女は寝台を降りて,灯りを付けて居なかった部屋の中を進んで

窓の外を見た。

夜遅くとはいえ,ヨコハマの街は夜景の景色が最高だ

そんな微かな光は彼女を美しく,そして悪女の様に映した。


『生きるなんて行為に,何か価値が有ると本気で思ってるの?』




そんな事,



「思うかな…。」










次の日。



「あなたちゃーん!」

『⁉︎』

「御早う,あなたちゃん!」

『…だ,誰…?』

「私はポートマフィアの首領,森鴎外。宜しくね」

『っ…』



「無駄だよ,森さん」

『!』

「おや,太宰君」


あなたちゃんは僕の処に走って来て,


『治!』

「おっと。」


僕の背中に手を回してしがみ付いた。


「此の子は僕の云う事しか信用しない。僕はそう云ったんだ」

「…成る程。」

「あなたちゃん,此の人は大丈夫だよ」

『……ポートマフィアって,云ってた』

「君を追って居た人間はポートマフィアの前の首領。此の人じゃ無い」

『…判った。』

「あなたちゃん,歳は?」

『知らない…』

「ぱっと見,十歳頃だと思う」

「十歳なら受付可能___」

「絶対駄目。」

「ちぇー,太宰君の意地悪!」

「意地悪とかじゃ無い」

『……治』

「ん?」

『御腹減った。』

「「…」」


余りにも普通の事を云うので,僕も森さんもお互い顔を合わせる。


「…ふふっ,勿論だ。いっぱい喰べると良い。」

「向こうに食堂が有るよ。今の時間なら姐さんが居るかな」

『姐さん…?』

「よーし,直接逢いに行こう!」


僕はあなたちゃんの手を取る。


「あなたちゃんの服も,姐さんに仕立てて貰おう!」

『ちょ,治…!』

「行くぞー!」


「元気な事だ。」









「ふむ…矢張り鶴では目処が立たぬのぅ…」


「また花札かい,姐さん?」

「おう,太宰か。そうじゃ,花札の手を鶴か月かで迷うておったのじゃ」

「うーん,また難しいのをして居るね。レベルを上げたの?」

「そうじゃのぅ」


『……椿』


「「ん?」」

『椿の札なら,勝てる…。』

「椿?」

「……成る程,其の考えが有ったか。」

『椿なら鶴よりも不利だけど,先回りして最後の一手で決まれる』

「凄いね,あなたちゃん」

『……一寸…憶えてただけだもん…』

「素晴らしい賭け運の持ち主じゃのぅ。太宰,此の少女は誰じゃ?」

「新しくポートマフィアに入った,あなたちゃんだ」

『…宜しく,御願い…します…。…で,合ってる?』

「良く云えたね,偉い偉い!」

「愛のぅ。私ちはポートマフィアの幹部,尾崎紅葉じゃ」

『姐さん…』

「……これ,太宰」

「僕ので憶えたのだね…」

「変な呼び方を教えるで無い」

「けど,僕にとっては姐さんだし…」

「全く…。」

『…治』

「嗚呼,そうだったね。何か喰べたいものは有るかい?」

『うーん…』

「おや,腹ごしらえかぇ?」

「はい」

『………拉麺…喰べたい』

「拉麺とは変わってるね」

『此の前何処かで見た。美味しい?』

「勿論さ。」

『じゃあ,喰べる。後御寿司と鮭と甘いもの!』

「甘味物が好きなのかぇ?」

『…はい…!』

「ならば今度一緒に,甘味処へ行こうぞ」

『っ…』


あなたちゃんはふと,僕の方を向く。

『此の人は信じても良い?』

と質問をしてくる様に。



「嗚呼,大丈夫だよ!」

「?」

『…姐さん,甘味処って何?』

「甘味処とはあなたの好きな甘いものが沢山有る場所じゃ。洋生菓子や氷菓子,他にも沢山有るぞ」

『凄い…甘味処…!』

「また行こうね,あなたちゃん」

『うん!』

「其処の童,飯を持って来てやれ」

「畏まりました。」


「処で姐さん,あなたちゃんが御飯を喰べ終わったら服を選んで欲しいんだ」

「えぇぞ。可愛よぅしてやろう」

「御願いね」












「美味いかぇ?」

『うん!』



「如何だい,太宰君?」

「森さん。…うん,元気だよ」

「彼女だけどね,行成仕事を任せるのは良く無いと思う。だからまずは異能の強化と,怪我の回復だね」

「僕に任せてくれない?」

「……頼んだよ。」




「おい,太宰」

「はーい。…!」



姐さんの後ろにはベージュの羽織に,

白い百合の花が描かれて居る黒い着物



「着替えたが,私ちはあなたは和装が似合うと思ぅてのぅ。此の様なもので良かったかぇ?」

『…』

「……凄っごい可愛い!」

「ほらの?喜んでくれたじゃろう?」

『…』

「え?」

「先刻まで駄々をこねておってのぅ。"治に見せるのが恥ずかしい"と顔を真っ赤にして,ふふっ」

『……///』

「あなたちゃん…」

「ふふっ,愛いのぅあなた。太宰,最初のあなたとの仕事じゃ。あなたと一緒に簪を見て来ておくれ」

「簪?」

「服とは女にとって自身を飾る物じゃ。髪を結ってやろうと思ぅたが,折角じゃ,太宰と街で見に行くのも構いない」

「簪,か…」


するとあなたちゃんは僕の処に寄ってきて,


『一緒に行ってくれる?』


と手をギュッと握って『行こう?』とせがんだ。


「…判ったよ,行こう」

『うん!』

「ふふっ。」


其のまま僕達は一緒に街に出た。






「…鴎外殿,"あなた"と聞かれ,真逆とは思ぅたが,彼の"守蘭姫"の子とはのぅ」

「流石だね,紅葉君。情報が速い」

「本当に此れで良かったのかぇ?」

「良いのだと思うよ。」

「…」

「唯,太宰君が今,彼女の為に生きようとして居るのは何とも云えないね。」

「まぁ,変な事を起こして人様に迷惑をかけておらぬので有れば,其れでもえぇじゃろう」

「確かに,前までは毎日の様に自殺しようとして居たのにねぇ」








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