第3話

4,220
2022/04/11 05:32
「あなたさん!」

『鏡花。』

「着物一緒ですね」

『本当だね』

「如何して其の花にしたんですか?」

『…アングレカムの花言葉』

「花言葉?」

『花言葉は___。』

「…………其れは,誰かに向けた言葉ですか?」

『…うん。』



「此のまま順調に戻ってくれると良いんだけどねぇ」

「一般的に治る方法は何ですか?」

「一番多いのは,記憶が無くなる前に一番印象に残って居るものを思い出す事さ」

「成る程…」

「乱歩。」

「何,社長?」

「あなたを見てやる事は出来ないのか?」

「………彼女を推理した所で,記憶が無くなる前の出来事を推理しても,彼女自身が記憶を戻す事は無いよ?」

「我々が知って居れば其れで良いのだ。無理に教える事も無い。」

「其れもそうですね」

「………判ったよ。」




「あなたちゃん」

『乱歩さん!』


あなたちゃんは乱歩さんの所にトテトテと小走りして行く。

其の様子はまるで飼い主に呼ばれる犬…かな。



「僕から目を離さないでね」

『?…判った』


「異能力,"超推理"。」







「…太宰」

「ん?」

「少し変な気分だ」

「如何してだい?」

「貴様がこんなにも誰かを気に掛ける事など今まで見た事無かったからな」

「…ふふっ」

「何が可笑しい?」

「仕方無いのだよ」

「何故だ?」

「私にとって彼女は,"敵わない"人間だから。」

「は?」

「聞こえて無いとでも思ったのかな…。私は地獄耳だと云ったのに。」




『アングレカムの花言葉は,"貴方とずっと一緒に居たい"って云うの。』



ずっと,か。



「………………私もだよ,あなたちゃん。」












「……成る程。」

「判ったか?」

「うん」

「敦。」

「はい。鏡花ちゃん!」


「何?」

「あなたさんと一緒に向こうで遊んでて貰う事出来るかな?」

「判った。でも…」

「?」

「私にも,あなたさんの事教えてね」

「勿論だよ!」







「あなたちゃんが此処に来る前,彼女は有る任務を行なって居る最中だった。」



冷たい雨が降り続く中。

黒い竜の着物で身を包む女性と,周りには五人の黒尽くめが居た

五人全員彼女に銃口を向け,一人が質問をした。


「御前がポートマフィアの,"守蘭姫"か?」

「顔も服装も合ってる,此の女で間違い無ぇ。」


『……煩い。』


「あ?」

『私は暇じゃ無いの,退いて』

「無駄に殺されてぇのか⁉︎」

『…違う。唯,任務を果たしたいだけなんだよ。』

「任務中か,其れは迷惑掛けたな!死ねぇ‼︎」


『…簡単に云うんじゃ無いよ』


「ウグッ…」

「おい!」

「大丈夫か⁉︎」

「ゴホゴホッ…彼の糞女…!」

『…』

「ウアッ!」

『私の事は勝手に云ってろ。けどね…』

「っ…!」

『死んだ事も無ぇ奴が,勝手に他人に"死ね"だなんて云うんじゃ無いよ!』



異能の攻撃,たった一撃で五人全員を倒した。


『…。』


更に雨が強く成り,あなたちゃんの体を打ち付けた。


「何してんだよ」

『!』

「風邪引くぞ。」


彼女の肩にコートを掛けたのは


『……中也。』


ポートマフィア第五幹部,中原中也。


「…毎度毎度,こんな任務ばっかしやがって……首領から聞いたぞ。こんな仕事ばかり受けてるんだってな」

『…うん』

「何故だ?御前は昔から人を殺すのは好きじゃ無ぇだろ?」

『リンタロウさんが云った言葉,納得は出来る』

「嗚呼,"長"のだろ?」

『……けど,一度死んだ人間からしてみれば,簡単に他人に"死ね"と声を上げるのは…悪い気持ちにしかならない』

「…御前の事は嫌いじゃ無ぇが」

『…』

「最近,御前が云う事が太宰の野郎の様で仕方無ぇ」

『…。』

「そんなに,会いてぇのか?」

『……うん。』

「変わり者だな,手前も。」

『皆そうだよ。』

「………帰るぞ。生洋菓子ケーキでも焼菓子クッキーでも,何でも食って,また元気になれよ」

『…うん。』

「後風邪引かねぇ様に,風呂入れよ」

『…………中也』

「あ?」

『先に帰ってて。』

「…。」

『寄りたい所が有る』

「……………ちゃんと帰って来いよ。」






『…中也が心配してくれるのは嬉しいけど,もう充分だよ。』


もう,疲れた。



其の言葉を頭の中で思った瞬間,背後から…


「…っ!」

『!』


あなたちゃんは,後ろから殴られた。


「仲間の…かた…き…」



『…そんなので…死ぬ訳無い…のにっ』



其のまま意識を手放した。

素敵帽子君の微かに見える背中を最後に…。








「かなり大きく殴られた様だ」

「其れで記憶が…」

「与謝野先生の先刻の話を合わせると,記憶を戻す鍵は其の中原中也に関係が有りそうだな」

「あなたちゃんは御菓子が好きなんだね!」

「乱歩と気が合うな」

「うん!」



「…」

「太宰さん」

「…」

「"会いたい"って,何ですか?」

「………さぁね。」

「助けたいんですよね⁉︎」

「「「!」」」


敦君が大きく声を上げた。


「あなたさんを助けたいから,社長に保護したいと頼んだり,入社の話を持ち掛けたり…」

「…」

「だったら,隠さずに教えて下さいよ!あなたさんの過去は何なのか!太宰さんと何の関係が有ったのか!」

「…」

「敦の言う通りだぞ,太宰」

「僕も同じ意見です」

「私もだ。」

「今,あなたさんの事を一番判ってあげられるのは,太宰さんなんですから!」

「……其れが,あなたちゃんが望む事だと思うのかい?」

「え…?」

「あなたちゃんが,不幸に有るとは思わないのかい?」

「「「…」」」

「誤魔化さないで下さいよ!」

「!」

「あなたちゃんあなたちゃんって…そんな事云っておきながら,自分が逃げてるだけじゃ無いですか⁉︎」

「…!」

「……あ,」


「小僧…」

「敦君…」


「其の…済みま…」

「其の通りだ。」

「え…」

「全く持って,其の通りだよ。」

「……なら,尚更です。教えて下さい。」

「…」



「私がポートマフィアに入って数年の頃,私は路地裏で彼女を見つけた。」

プリ小説オーディオドラマ