──ヤメテ これ以上私を穢さないで
目覚めて目に入ったのは見慣れた天井で
ふわり と香る匂いは大志 のだと分かった
(なんで、家に?)
と最初は疑問に思ったが 徐々に蘇ってくる記憶。
大志の部屋にある鏡の前に立ち首筋をみれば 赤くなっている点がある。
─気持ち悪い
無意識にそこをゴシゴシと擦る とれるわけなんてないのに。冷静な自分が嘲笑う
なにも出てくるものなんてないのに ただ喉に何かが引っ付いているような感覚で息苦しい
胸の当たりが締め付けられたようにいたい。
吐き出したい。
全て、すっからかんになってしまえばいいのに
ふぅ と小さく息を吐いて大志の部屋を見渡せば2人の写真やお揃いのものが見える
全く同じことをしていて少し胸の違和感が小さくなった。
そのままおぼつかない足取りでリビングに向かう
聞こえてくる大志の声
(誰かと話している)
電話なんて珍しい やり取りする相手は自分くらいしかいないと思っていたけど… その人は誰?
『ヨロシクね』
頼れる人?
『ククッ』
大志を笑わせることができる人?
『─楽しみだ』
大志に楽しみと希望を持たせる人?
─ワタシは 困らせて迷惑をかけてしまう人
要らない不安が脳内を覆う 黒い霧で"信用"の文字が霞んでいく
『う"ッ』
急な嘔吐に口元を抑える
そのまま廊下に蹲る ひやりと冷気が頬を掠めてぶるりと身震いをする。でも、その冷たさが今は心地よく感じた
ドアに体が当たりガタッと音を立てる
そんな音も今は聞こえこない
聞こえてくるのは 大志の足跡 ペタッペタッと裸足でフローリングを蹴る音
いつもは好きなのに今は 怖い。
ガチャリと音を立てて ドアは開く
『おっ』
頭上から聞こえてくる声
隣に感じる人の気配
前髪の隙間からチラッと上を除くと ビックリしたように目を丸め 困惑に眉を下げている表情の大志が見えた
『どうしたの?』
しゃがんで目線を合わせようとする
伸びてくる腕。
『紗季?』
──パシンッ
乾いた音が廊下に響く
『ッ・・・』 「あっ…」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。