第40話

記憶の端
691
2018/11/06 12:20
こんなに1人の女に 興味をもって
欲しい と思ったのは生きていて初めてだった

見かけたのは 一年前の冬


歩いている姿に目を奪われた。

あの艶のある黒髪が左右に揺れて
少し憂いをおびている目は睫毛の影に隠されている



そんな彼女が綺麗で、 どうしようもなく欲しくなった。



───欲しい。




少し手を伸ばしたとき




「紗季!!」
「っ!・・・大志、驚かせないでよ」


少し顔を綻ばせた彼女。隣の男は彼氏だろう
雰囲気で分かる。絶対的な、謎の威圧感のようなそんな感じが分かる。

整っている顔の2人が幸せそうにしているの光景は世界に2人だけがいるような錯覚に陥る


美男美女。 男が現れた瞬間彼女の周りにいた男どもは散っていった 俺を除いて



そして想像してしまう
あの綺麗な声で名前を呼んでくれたらどんなに嬉しいかと。

だけど彼女の全てはあの男の腕の中にあった。

伸ばしていた俺の手は悲しく宙を切る

俺の…俺の… "紗季"。欲しいなぁ。

"愛情"それは分からないけどこの気持ちがそうならあまり喜ばしいことじゃない

体の内側から焼けるようなじわじわと熱くなる感じは慣れない




初めて欲しいと思ったものは何としてでも手に入れたいと思った。
色々頑張った。 高校を特定して 同い歳だと分かった (同じクラスになればいいな)なんて願ったりしたけどまさか叶うなんて思ってもなかった
このときは少し神様を信じたかもしれない


だけど彼女の横にいたのはあの時と変わらずあの男。

あの時みた男の笑顔は一切なく男はボーとしている


(俺には興味なしか)


男の目線は隣の彼女に向けている
そんな彼女も俺を一瞥して彼氏の方を見た

すぐに興味を失われたことが分かる

(ズキ、)少し痛む胸は無視して 笑顔を取り繕う


どんどん距離を詰めていこうと思ったけど
なぜか俺は初っ端から嫌われてしまった

ポーカーフェイスには自信があったんだけどな… と自省している反面やっぱり魅力的な彼女が欲しいと心は渇望するばかりだった。



心は乾いて乾いて、潤いが欲しくてたまらない






そんなんでもやっぱり募るものはどんどん胸の中に募っていく。

それの蓋が切れたのが今

珍しく紗季ちゃんは1人だった

そして都合のよく誰もいない図書室。

出来すぎている状況に2回目、神に感謝した

過ごしていてわかったことは この2人を別れさすなんて無理な話。
別にいいさ。俺は紗季がいればいい。
でも笹枝は邪魔。そんな矛盾がずっと頭の中で反芻していた。考えるのは嫌いだから気分が悪くなるばかりだった

だから

俺の望む事は記憶と心の奥で俺のことを焼き付けておいてほしい。
それだけでとても嬉しい気持ちになる。


人は嬉しい記憶より 辛い嫌な記憶の方が忘れにくい

ならばそれを利用しよう。

ああ、これで俺は彼女の心の中に入れた。

あの無関心な瞳に俺は映ることが出来た。

あの黒い瞳から流れ出る涙はとても美しく感じた。

そして彼女の首筋にある印。どうせすぐ消えちゃうかもだけど そこは俺の自己満足。




笹枝から何かをされる覚悟はあった

でも俺もそこらの雑魚じゃない。多少喧嘩には自信がある。



でも計算外だなぁ 笹枝大志がこんなに狂気じみてるとは




──「ドウシテヤロウ」



流石の俺も腰抜かしちゃった。そう言いニタリと口角を上げる様は肉食獣を彷彿とさせた
(昔、テレビで見た事があるな)とどこか冷静な自分がいる。
殺気全開 .瞳孔は開ききってるし


何が面白いのか 口角が上がってとても愉快そうに笑っている。

男でも見惚れてしまうほど 綺麗な笑みだと思った。

そんな笹枝は顔と雰囲気が正反対だ。

その異様さが不気味でしょうがない


(殺される)


その言葉が脳裏に過ぎる


──笹枝の足が宙に浮いた



そんなんでも頭の中は変に冷静で

防御しようかしまいかを考えていた。


そんな勢いのある足は綺麗な声によってピタッと動きを止める


──「大志…っ」



笹枝の腕の中にいて意識を失っている紗季。


寝言なんだろうけど 眉を潜ませ少し額にら脂汗が浮かんでいた その声は苦しげで。



(ああ、夢の中にでも俺がいるのか。)



ニヤつく口元をとっさに隠した



「・・・」


無言で俺を見下ろす大志。

「こっわ…」
『チッ、』

ギロりと効果音がつきそうな睨みをつきつけ勢いよく扉から出ていった







パタッ 『イテッ、』 上から本が降ってきた

『あ、本棚…直すのめんどぉ〜』

その言葉は寂しく部屋に四散していった








プリ小説オーディオドラマ