『今の、私に…触ら、ないで…。』
自分でも分かるほど細々しい声だと思う 自分の耳に聞こえるのもやっとくらいの大きさなのに彼は私の言葉を必ず聞き逃さない。
それが大志なんだ。
そのくらい私も貴方のことを愛しているの
彼の存在はどんなものより綺麗に思える。
だから 今の私によって穢されたくない
…穢い男に触られた私に触れて欲しくなかった
「っ…分かった」
それを分かっている大志は、洗面台の電気をつけてくれる
震える自分の足に力をこめて立ち上がれば
少しの目眩を覚えてふらつきそうになるが耐える そのまま、壁に身体を預けながら足を引きずるようにしてお風呂場を目指す
扉を開けばいつもと変わらない洗面台があった
2つある歯ブラシ、化粧落とし、洗顔 私の物がたくさんある
今の私にはそれが眩しく見えた。
それらを目をそらすようにしてしお風呂への扉を開く
相変わらず大きい。1人暮しにしては少し豪華な気がするものも2人で入ればちょうどいいことを知っている。
そして身につけている布がパサりと音を立てて床に落ちた。 でも大志のカーディガンは拾い直して丁寧に畳んで洗濯機の中に入れた
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!