あ、あの…!秋山先生!
昨日は本当にありがとうございました。
べつに感謝されるようなことはしてないよ。
医者として、救命医として当たり前のことしただけ。
は、はい…。(落ち込む)
(横峯を見て慌てる)え、わっ。ちょっと。
違う違う…!!ごめんって!
えっ…?
ごめんね。藍沢先生とかはこーいうの慣れてるからその感じで話してた…。(笑う)
私、医療のことになると人が変わるみたいで。
別に怒ってなんかないよ。
横峯先生、眞子ちゃんいつもこんな感じだから。(笑う)
いちいちへこんでたら持たないよ?
そーそー。
普段とのギャップありすぎだから。ほんと。
ま、変わってくれた方が私は何か安心したりしてるんだけどね〜。
そうなんですね…!わかりました!
横峯ほど切り替え早かったら白石と緋山の心配もいらなそうだな!
余計なこと言わない。
…はい!
ーその後、CS室でー
あ、秋山先生!
そういえばこの前のヘリの時言ってたことって何なんですか?
ん?言ってたこと?
あ、あれじゃないですか…?
昔の事故とかなんとか…。
それ、私も聞きたいです。
…じゃあ、俺も。
あぁ、その事か…。
えっと…話せば長くなるんだけど…。
私、3歳の頃に事故で両親を亡くしたの。知ってるかな?柿内トンネルの崩落事故って。20年以上前のことなんだけど。
その事故なら知ってます。
父も医者なので、大変だったって聞かされたことあります。何でもかなりの人が亡くなったって。
うん、そうね。たくさんの人が亡くなった。
あの事故で私は両親を亡くして、兄と生き別れたの。まぁ兄とは8年前に再会してるし今は一緒に住んでるんだけどね!
あの日は家族で出かけてた帰りだったの。
私のわがままで、途中でファミレス寄って帰ってるところだった。今でも後悔してる。わがまま言わなければ事故には遭わなかったのかもなって。
…。
爆発音が聞こえて、すぐ後にものすごい熱風で車がひっくり返った。
近くではたくさんの車が燃えてて、まるで大火事だった…。子供の泣き声、子供を探す親の声、「痛い、痛い」って叫ぶケガ人の声…。(声が震えてる)
本当に自分が生きてるのかわからなくなるくらいの地獄絵図が目の前に広がってるの。
(近くを通りかかってたまたま会話が聞こえた)
…。
母は私を、父は兄をかばうように覆いかぶさってくれて…。
そのおかげで私と兄は爆発の被害から守られて今こうして生きてる。でも両親は亡くなった。
(深いため息をつく)それからの私の人生は想像を絶するものだった。幼い頃は事故の後遺症で入退院の繰り返しだし、退院しても身寄りはいないから施設で暮らしてた。自分が生きてると周りの人を不幸にするんじゃないかって思いつめてた時期もある。でもそんな私に親身になって寄り添ってくれた看護師さん、生きてる意味を教えてくれた先生。本当にたくさんの人の支えがあって今私は生きてるの。
だから私もそうやって誰かの支えになりたい、生きる希望を与えてあげたいって思ってこの仕事をしてる。まだまだ未熟なんだけどね…!
最初は他の病院で外科医だけ、とか産科医だけとかやってたんだけど、どんな患者も救えたらなって救命に転科したの。だから大体のことはできる…はず。(笑う)
…そう、だったん、ですね…。
そんな暗い顔しないで?みんな。
救命医は根性勝負。そんな顔してたら持たないよ。ほら、仕事仕事!(みんなの背中を押して部屋から出る)
…はい。
ーそれぞれ仕事に戻るー
言ったのか、フェローにあのこと。
え、聞いてたの?
うん、言ったよ。別に隠してるわけじゃなかったし聞かれたから。
大丈夫か。体調。
いつもこの話の後になると…
うん、大丈夫。ありがと。
秋山。橋田さんのカルテまとまってるか?
あ、はい!今持ってきます!
じゃあね、藍沢先生。あ、ほんとに大丈夫だから気にしないで。じゃ!(カルテを取りに行く)
…。
何。眞子ちゃんどうかしたの?
え、なんかあったの?藍沢先生?
いや、別に何でもない。
(眞子と反対の方へ歩いていく)
緋山、名取が探してたぞ。
何か書類のデータが何とか。
うーわ忘れてた。(名取のところに行く)
あ、冴島。これよろしく。
(カルテを渡す)
わかりました。(病室に向かう)
え、あれ。誰もいなくなっちゃった…。
私もラウンド行ってこよ。
誰もがみんな、特別な思いがあってこの仕事をしてる。
人は1人じゃ生きていけない。だから一緒に泣いて笑って、強くなれる、成長していける仲間が隣にいてくれること。とても幸せだ。
「眞子なら大丈夫。強く生きなさい。」
最後にお母さんが私に行った言葉。20年以上前だけど鮮明に覚えてる。この言葉は絶対忘れちゃいけない。これから先、強い救命医であり続けるために。
(スクラブの胸のあたりを掴んで)
…よし。
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