第19話

Reality #19
2,500
2018/08/11 04:03
…あれ、ここって。
何があったんだっけ…。確かヘリで運ばれてきた患者さんが緊急オペになって、それで…
藍沢
藍沢
(処置室に入ってきて)起きたか。
どうだ、体調は。
秋山眞子
あ…。藍沢先生。(体を起こして)
何があったんだっけ…。
藍沢
藍沢
(点滴をいじりながら)患者の処置中にお前が倒れた。覚えてないのか。
秋山眞子
えっと…。
…気持ち悪くなって、でも迷惑になるからとりあえず端に避けようと思って動いたら急に目の前が真っ暗になって…。
それからは覚えてない。
藍沢
藍沢
そうか。お前はそのまま気を失ったんだ。
本態性低血圧症だろうな。
秋山眞子
…本態性低血圧症。
確かにそれなら思い当たることばっかり。
めまいや動悸もあった。吐き気はずっと船酔いだと思ってたけど。
藍沢
藍沢
…この点滴が終わったらもう戻っていい。
ただ今日は患者はみるな、仕事をしたいなら裏で書類でもまとめておけ。
秋山眞子
わかってる。(笑う)
(点滴を見て)あと1時間半くらいかな…。
あ、あの患者さんどうした?ICU?HCU?
藍沢
藍沢
…助からなかった。
搬送されてきたときにはもう遅かった。開頭したが脳脱していた。あれじゃ手の施しようがない。
秋山眞子
…そっか。
まだ若そうだったけどね。これが現実か…。
藍沢
藍沢
(椅子に座って)身寄りはたった1人、母親だけだった。
…お前なら何て説明する。たった1人の大事な息子を突然失った母親に、なんて言葉をかける?
秋山眞子
(藍沢を見る)
藍沢
藍沢
…悪い、体調悪くて休んでる人間に聞くもんじゃないな。忘れてくれ。
ー藍沢の無線がなるー
CS
(マイクで)ドクターヘリ、エンジンスタート。
藍沢
藍沢
…。(走って部屋を出ようとする)
秋山眞子
待って!
藍沢
藍沢
(振り返る)
秋山眞子
あなたは優秀な医者。でもその手は、メスを握ってオペしたりするだけのものじゃない。
…無愛想だけど、無口だけど、あなたがいると安心する。それは私たちドクターやナースだけじゃないはず、きっと患者さんだってそう。
迷うのは当たり前。それがたとえあなたでも。
自信持って。医者がすることはケガや病気を治すことだけじゃないと思う。その人や、そのご家族に寄り添うことも医者の務め。
…何人もの命と心を救ってきたあなたの手なら大丈夫。絶対、大丈夫だから。
藍沢
藍沢
(頷いて部屋を出て行く)
秋山眞子
…私、何にもできない。
私が点滴が終わって戻る頃には、外来は終わっていた。
…何だかんだバタバタしてた救命の1日も終わった。
白石
白石
お疲れ様。体調どう?
秋山眞子
うん、全然元気。 
ごめんね、今日3フライトもあって忙しかったのに手間増やしちゃって…。
…あれ、私服。もう帰るの?
白石
白石
うん。今日は帰る。(笑う)
…気にしないで。
そういう性格だよ、疲れちゃうのは。
秋山眞子
え…?
白石
白石
藍沢先生が言ってた。
今日の3フライト目に行く前、眞子ちゃんに励まされたんだって。
迷うのは当たり前だから、大丈夫だって。
秋山眞子
あ…。
白石
白石
自分よりも他人が大事だって思うのは、あなたの性格上よくわかる。
でもね、自分も大事にしなきゃ。眞子ちゃんが大事にしたいって思う人たちが眞子ちゃんのことを心配してるの。(笑う)
それじゃ本末転倒でしょ?
秋山眞子
そうだね。(笑う)
それ、海生にも言われた。
白石
白石
(笑う)
当直、よろしくね。何かあったらすぐ呼んで?
今日は緋山先生と冴島さんとめぐり愛にいるから。
秋山眞子
あ!いいな〜!(笑う)
白石
白石
また今度行こう。ちゃんと完全復活してから。(笑う)
秋山眞子
うん!
緋山
緋山
白石、まだ〜?
もう準備できてるんだけど。
冴島
冴島
緋山先生と先行ってるよ?
白石
白石
あ!待って今行く!(2人のところに行く)
秋山眞子
(白石と一緒に緋山と冴島のところに行って)楽しんでね!ここは任せて。(笑う)
あと、今度は私も連れてってよ?
緋山
緋山
分かってるって!
じゃ、今日の当直あと名取と灰谷と雪村だから。頼むね。
…うわ、大変そうなメンツだな。
冴島
冴島
元気そうでよかった。(笑う)
来週にでもまたみんなで!じゃあ行ってきます。
秋山眞子
緋山先生、去り際にそれはひどい。(笑う)
行ってらっしゃい!
ー30分後ー
藤川
藤川
(キョロキョロしながら入ってきて)あ!眞子ちゃん!はるか知らない?
秋山眞子
え、白石先生と緋山先生とめぐり愛行ったけど?
藤川
藤川
忘れてた!じゃあ、俺も帰るわ!当直頑張れよ!(走って帰って行く)
秋山眞子
(藤川を見送って)…台風かよ。(笑う)
秋山眞子
さてと、あの3人に声かけて仮眠とろうかな…。
ー医局に行ってー
秋山眞子
お疲れ様。私しばらく仮眠とっていい?
何かあったら起こしてくれていいから。
名取
名取
わかりました。
無理しないでくださいね?倒れられたら困るんで。
秋山眞子
そうね、手がかかる患者だもんね。(笑う)
灰谷
灰谷
…確かに秋山先生倒れても意識あったら僕らに指示出しそうですよね。これは違う!とか。(笑う)
秋山眞子
どんなイメージ持ってんのよ。(笑う)
あ、雪村さん。明日のカンファレンスの資料まとめてデータで送っておいたから確認して?
雪村
雪村
…ありがとうございます!
確認しておきます。
秋山眞子
じゃ、ラウンドだけ忘れないようにね。(仮眠室へ行く)
ー仮眠室でー
秋山眞子
…あの藍沢先生からの質問、私だったらどうするんだろう。
突然家族を失うって、飲み込めないもんな…。
私は3歳だったけど、病院で自分の意識が戻って両親が亡くなったことを改めて聞かされて、しばらく何も考えられなくなったことを思い出した。
人は突然いなくなる。もしかしたら、さっきまで普通に会っていた人にもう2度と会えなくなるかもしれない。
たった1人の大事な息子を突然失った母親の悲しみ、到底計り知れない。そんな状況で、私たちにできることは何なんだろう…。
ー眞子の携帯が鳴るー
秋山眞子
こんな時間に電話…?誰だろ。
番号は…。あ、私誰も電話帳登録してないんだった。(笑う)
秋山眞子
(電話で)はい、もしもし。秋山眞子です。
「もしもし、久しぶり。たまたま東京来てるから、明日あたり会いに行くわ!何年振りかな?8年くらい?楽しみにしてる。」
秋山眞子
(電話で)わかった。また明日連絡して。
時間合えば病院の正面玄関ぐらいまでは迎えに行くから。じゃあね。
懐かしい声にどこか心が落ち着く。
…大切な人を失った悲しみは、当たり前だけどそう簡単に乗り越えられるものじゃない。でも、きっと側にいる。その悲しみや辛さ、痛みに寄り添いたいと思ってくれる人が。
だから人は1人じゃ生きていけない。誰かがいるから強くなれる。

プリ小説オーディオドラマ