第15話

Mistake #15
2,391
2018/08/06 14:54
秋山眞子
折山さん、具合どうですか?
点滴変えますね。雪村さんお願い。
雪村
雪村
はい。(点滴を変える)
秋山眞子
あれ…。(ベッドサイドの写真を見て)
雪村
雪村
秋山先生、終わりました。
秋山眞子
あ、ありがとう。
また2時間後に来ますね。それじゃあ。(病室を出る)
ー医局でー
秋山眞子
ねえ雪村さん。
雪村
雪村
何ですか…?
秋山眞子
折山さんって奥さんいるんだっけ?
雪村
雪村
いや、確か独身のはずです。(カルテを見ながら)ここにはそう書いて…
名取
名取
あの写真の人なら親友だそうですよ。
でも今はどこにいるのかすらわからないって。
秋山眞子
うわ、名取先生聞いてたの?
でも、親友かぁ…。あの写真の折山さん、すごくいい顔してたんだよねー。
雪村
雪村
入院してからは笑った顔見たことないですよね…。
秋山眞子
そうね…。
私、少し話して見る。担当医だし!
雪村
雪村
話すって、何をですか…?
秋山眞子
んー、職業とか、ご家族のこととかかな。
私だってあの写真見たいな折山さんの笑顔見て見たいし。(笑う)
名取
名取
あんまりプライベートに入ると嫌がられますよ。
秋山眞子
大丈夫、私は名取先生とは違うから。(笑う)
名取
名取
それ、どういう意味ですか。
秋山眞子
ご想像にお任せします…。じゃ。(笑って医局を出る)
ー1時間後ー
折山さんは、照れたようにはにかみながら話してくれた。
私はそんな折山さんの話を聞いて、自分と重ね合わせていた。
あの写真で彼の隣で笑っている折山さんの親友は、折山さんが2年前上京する際に別れて以降連絡を取っていないんだという。
しばらくは気にも留めていなかったが、自身の実家は鹿児島で、入院しても見舞いに来てくれる人はそんなにいないため、ふと寂しくなったときに彼女のことを思い出したんだとか。そこで手帳に入っていた写真をベットサイドに飾っていた。

実は私にも、そんな存在の人がいる。
この前1年間ヘルプで入っていた島の診療所によく来ていた人。私が翔北に来る前、あの島にいた頃、診療所によく来る彼と仲良くなった。
私がこっちに来てからべつに連絡もとっていない。でも、折山さんと話をしたとき真っ先に思い浮かんだのはあの人の顔だった。べつに彼氏でもない、恋愛感情なんて全く無いのに…。
ヘルプに入っていた去年1年間、彼が留学していてたまたまタイミングが合わなくて会えなかった。
…今、どこで何してるんだろう。
秋山眞子
…。
藍沢
藍沢
…い、おい。聞いてんのか。
秋山眞子
え、何ごめん!
藍沢
藍沢
これ、書いておいてくれ。
秋山眞子
あ、うん。わかった。
今日はもう帰るの?
藍沢
藍沢
いや、本当は昨日当直じゃなかったから帰るはずだったが帰れなかった。
それに今日が当直だ。
秋山眞子
そっか。お疲れ様。
緋山
緋山
どうしちゃったの。眞子ちゃんぽけーっとしちゃって。
秋山眞子
え、嘘。
白石
白石
ほんと。考え事でもしてるの?
秋山眞子
いや、別に考え事ってわけでもないけど…。
横峯
横峯
じゃあ、恋の悩みとかですか?
秋山眞子
…い、いや!違うって!
そういう突拍子もないこと言わないでよ。(笑う)
緋山
緋山
ふーん。(笑う)
秋山眞子
緋山先生、勘違いしてない…?
名取
名取
でも、秋山先生モテそうじゃないですか。
緋山先生と違ってキツくないですし。(緋山を見る)
緋山
緋山
ちょっと名取、それどうい…
名取
名取
な、灰谷?
灰谷
灰谷
え、あ、うん…。
名取
名取
それに、緋山先生には緒方さんいるでしょ?
緋山
緋山
まあそうかもしれないけど…。
ーホットラインが鳴るー
白石
白石
翔北救命センターです。
消防
石坂消防よりドクターヘリ要請。
敷浪島で傷病者が出たとのことですが、島の診療所では対応しきれないそうです。
出動できますか?
秋山眞子
…!
白石
白石
患者さん、どういう状態ですか?
消防
まだ詳しい情報は入って来ていません。
ただ、傷病者は1人だそうです。
藤川
藤川
ヘリ飛べるぞ。
白石
白石
分かりました、出動します。
藍沢
藍沢
(眞子を見て)…秋山どうした。
橘
どうした、何かあるのか。
秋山眞子
…敷浪島は、私が以前いた島です。
その診療所も、昔勤めていたところです。去年1年間ヘルプで入っていた…。
橘
そうか…。
今日のヘリは誰だ?
藍沢
藍沢
藍沢、横峯、冴島です。
橘
横峯、秋山と代わってくれ。
秋山の方が島のこともよく知ってるし、診療所の医師とも連携が取れるだろう。
秋山、行ってくれるか?
秋山眞子
…はい!
横峯
横峯
お願いします!(シーバーを眞子に渡す)
秋山眞子
(頷く)
CS
(マイクで)ドクターヘリ、エンジンスタート。
藍沢
藍沢
秋山、冴島、行くぞ。
秋山眞子
(頷く)
冴島
冴島
はい!
…複雑な気持ち。私、今から敷浪島に戻るんだ。
でも、行くのは患者を救うため。嬉しいような、怖いような…。
先生がどうにもできなかったような患者さん、私たちで救えるんだろうか。不安…。
ーヘリの中でー
藍沢
藍沢
秋山、島の人たちの顔と名前は全員分かるのか。
秋山眞子
全員かどうかは…。でも大体わかる。
顔と名前、それと血液型も。
藍沢
藍沢
そうか。ならいい。
…ただ、無理はするな。発作が起きたら困る。
冴島
冴島
(眞子を見る)
秋山眞子
(頷く)分かってる。
それに島のみんなの前で倒れたりなんかしたら余計な心配かけるしね。
冴島
冴島
…あれ、ですか?(外を見て)
秋山眞子
そう。あれが敷浪島。
私がお世話になったところ。
秋山眞子
…よし。(スクラブの胸のあたりを掴む)
私がこの日敷浪島に来たのは、偶然なんかじゃなくて必然だったのかもしれない。
この島に残して来てしまった忘れ物、取りに来たのかもしれない。
過去の過ちを、モヤモヤを、心残りだったことを…。
10年前、私はこの島を出た。私はきっとこの10年で変わってしまった。いい意味でも、悪い意味でも。
でもこの島は変わってない。いつでも待っていてくれる。こんな私のことでも。
ーヘリが到着するー
藍沢
藍沢
秋山は診療所で確認取って来てくれ。
秋山眞子
分かった。
藍沢
藍沢
冴島行くぞ。
冴島
冴島
はい。
秋山眞子
(走って診療所に向かって)先生…!
私です、眞子です!何があったのか説明してもらえませんか?

…先生?(返事がないため奥に入って行く)
秋山眞子
(奥の部屋に人影を見つけて)あの…。

えっ…。海生…?
何で、ここに…診療所に海生がいるの…。

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