ー医局でー
ー1時間後ー
折山さんは、照れたようにはにかみながら話してくれた。
私はそんな折山さんの話を聞いて、自分と重ね合わせていた。
あの写真で彼の隣で笑っている折山さんの親友は、折山さんが2年前上京する際に別れて以降連絡を取っていないんだという。
しばらくは気にも留めていなかったが、自身の実家は鹿児島で、入院しても見舞いに来てくれる人はそんなにいないため、ふと寂しくなったときに彼女のことを思い出したんだとか。そこで手帳に入っていた写真をベットサイドに飾っていた。
実は私にも、そんな存在の人がいる。
この前1年間ヘルプで入っていた島の診療所によく来ていた人。私が翔北に来る前、あの島にいた頃、診療所によく来る彼と仲良くなった。
私がこっちに来てからべつに連絡もとっていない。でも、折山さんと話をしたとき真っ先に思い浮かんだのはあの人の顔だった。べつに彼氏でもない、恋愛感情なんて全く無いのに…。
ヘルプに入っていた去年1年間、彼が留学していてたまたまタイミングが合わなくて会えなかった。
…今、どこで何してるんだろう。
ーホットラインが鳴るー
…複雑な気持ち。私、今から敷浪島に戻るんだ。
でも、行くのは患者を救うため。嬉しいような、怖いような…。
先生がどうにもできなかったような患者さん、私たちで救えるんだろうか。不安…。
ーヘリの中でー
私がこの日敷浪島に来たのは、偶然なんかじゃなくて必然だったのかもしれない。
この島に残して来てしまった忘れ物、取りに来たのかもしれない。
過去の過ちを、モヤモヤを、心残りだったことを…。
10年前、私はこの島を出た。私はきっとこの10年で変わってしまった。いい意味でも、悪い意味でも。
でもこの島は変わってない。いつでも待っていてくれる。こんな私のことでも。
ーヘリが到着するー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。