入口を見ると――――鬼のような禍々しいオーラを放ちながら笑っている優さんがいた。
「お前、男の部屋には入るなって言ったろ?」
「い、言いました……でも、“夜は”って、確か」
「夕方も夜と一緒だ。ほら、出てこい」
ニッコリと笑って手招きする優さんだが、まだ鬼のようなオーラは健在だ。
恐る恐る優さんへ歩み寄る私は、これまでの人生で一、二を争うほどの恐怖を感じている。
そして、優さんの元にたどり着いた。
「――なーんてな」
明るい声が聞こえたと思えば、優さんに抱きしめられた。
「お前が好きだ、ハルチカ。俺と付き合ってくれねえか?」
……え?
「えぇっ!?」
叫んだ直後、優さんの頭に誰かの拳が振り落とされ、ゴンッと鈍い音が響いた。
「いてっ!いきなり何だ!?」
「何だじゃねぇよ。一人だけ先に告ってんじゃねぇ」
頭を押さえて振り返った優さんに、イラついた表情の叶が言う。
やっぱ来たか、と呟いたところを見るに、優さんは叶が来るのを予想済みだったらしい。
……ん?「一人だけ先に告ってんじゃねぇ」?
表情はそのまま、叶が近付いてくる。
「ハルチカ」
「な、何?」
反射的に身構えた私の額に、短い口付けが落ちた。
「好きだ。俺と付き合え」
「……っなぁぁ!?」
奇声を発し、私はキスされた箇所を押さえて後ずさった。
叶はそんな私を見てくっくっと笑っている。
――顔が沸騰したかのように熱い。何!?二人ともどうしたの!?
「あーっ、叶ずっるー!じゃあ僕もー」
不意に顎をすくい上げられ、強制的に合わされた視線の先で「裏」の理央くんが妖笑する。
「好きだハルチカ。当然、俺と付き合うよな?」
今まで何度も口説かれたけれど、その全てに勝る、甘く妖艶な雰囲気。
本気だ、と分かった瞬間、頬が一気に熱を上げた。
「……っあ、の、」
徐々に理央くんの顔が迫っていることにも気付けないほど惑わされていた。
だが、唇が触れ合うより早く、理央くんを誰かが引き剥がした。
「遙悠。俺も、好きだよ」
藍がいつものトーンで言って、私を抱きしめた。
もちろん驚いたが、私以上にみんなが驚いていた。
「お前も好きだったのか、藍」
「俺に協力してくれたからてっきり恋愛感情はないんだと思ってた……」
「俺もそう思ってたよ叶。でも、みんなの告白見てて、取られたくないって思ったから、自覚した」
「……藍もか……はぁあ、僕だけで良かったのになぁ、ハルチカちゃんを好きなの」
優さんたち三人がなぜか和気あいあいとした空気で話し、床に尻もちをついていた理央くんが独り言を呟きながら立ち上がる。
……ここまで来たら、さすがの私も分かるぞ。
でも……。
「いきなりすぎません!?」
抗議した私に、みんなは口を揃えて言った。
「「「「お前が気付いてなかっただけだよ」」」」
……嘘、だよね?
「残念ながら本当だぞ」
「僕、絶対君を落とすから!」
「遙悠と付き合うのは俺だよ」
「まぁとにかく、だ。覚悟しろよ?ハルチカ」
叶がニヤリと口角を上げた。
叶だけじゃない。みんなそれぞれにやる気満々の表情をしていて、私は逃げられないことを悟った。
「……っ」
私は全身をふるふると震わせ、心の中で思いっきり叫んだ。
『こんな展開いりません!!』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。