着いたのは、人気のない校舎裏。
私を壁に追い詰め、逃げ場をなくすように取り囲んでくる三年女子の皆さん。
「今からする質問に全て答えて」
トップが有無を言わさぬ表情で一歩踏み出してきた。
「叶くんだっけ?彼がいるのにどうして理央くんにも関わってるの?」
「か……関わってるって……」
シェアハウスで一緒に暮らしてるだけなんですけど、とは言えない。
「高崎くんと毎日帰ってるのもどうして?入学式の日からよね?いつ仲良くなったの?」
「あ……えっとー」
それもシェアハウスで……とは言えない。
言えたら一瞬で終わるのに!!
……いや、言ったらもっとやばいか。理央くんたちと一つ屋根の下なんて知られたらそれこそ何されるか。
「答えるまで帰さないから」
「……あの、思うんですけど……」
「何?」
トップの視線が一層鋭さを増す。
怖くて縮み上がってしまうけれど、自分自身を鼓舞して口を動かした。
「理央くんは私を異性として好きじゃないと思うし、そもそも人間として好かれてるかも怪しいところなので……先輩たちが心配するようなことは何もないかと……」
よし……!よく言った!これで大丈夫だよきっと!!「そうだったの!安心したー、じゃあもう帰っていいよ」って言い残して去っていくに決まってる!!よくやった私!!
と自画自賛していたが、突然校舎裏がしんと静まり返ったため混乱する。
な、なんで何も言わないんですかトップさん……?
「……わざとなの?」
「え?」
「特別だって自覚あるからそんな風に言うの?余裕なの?」
「はい?」
特別?余裕?何の話ですか?
首を傾げれば、「とぼけないでよ」と恨みの篭った目で睨まれる。とぼけてません、本当に分からないんです。
理央くん関連だよね?特別って何?理央くんって誰かを特別扱いすることはない人だと思うんだけど……。
前に「みんな平等にしないと、特別扱いしない子が可哀想でしょ?」って優さんに言って苦笑いされてたとこ見たもん。
「私……理央くんに追いかけられたことなんて一度もない。ここにいるみんなそう。理央くんは来る者拒まず去る者追わずなの……でも、あなたのことは追いかけて、抱きついてまで止めて『行くな』って……なんなの。彼氏がいるくせに!」
「え、えっと……」
「理央くんまで手に入れようとしないで!!」
トップが右手を大きく振りかぶった。
待っ、待ってこれ絶対痛いやつ――……!!
しかし避けるだけの度胸はない。覚悟して、私は強く目を瞑った。
パシッ!と、乾いた音。だが、私に痛みはやってこない。
「俺の彼女に何しようとしてくれてんですか?先輩」
代わりに、いるはずのない声がした。
ゆっくりと目を開く。――私の前に、大きな背中があった。
「か……叶くん」
叶は無言で腕を下ろした。それとトップの動きから察するに、あの乾いた音はトップが振り下ろした手を叶が掴んだ音か。
「次やったら理央に言いますんで。もう彼女に何もしないでくださいね?」
「……!」
三年女子たちが一様に苦い顔をした。
そして、トップが踵を返したのを皮切りに、全員、逃げるように消えていった。
叶がぐるっと振り向いてきて私に言った。
「無事か?ハルチカ」
「う、うん。ありがと……」
戸惑いながらも頷くと、はぁー……と叶の口からため息が吐き出された。
「焦った……藍があんなメッセージ送ってくるから、すげぇ捜して、やっと見つけたら叩かれそうになってるし……」
「あんなメッセージ?」
「あぁいや、何でもねぇ」
叶は気まずそうに目を逸らした。
聞かれたくなさそうだったので、私は追及しないことにして、別のことを尋ねた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。