-気付いたら、“好き”だった
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いつからかなんて、分からない。
ただはっきり言えるのは、妹みたいに思っていたあいつを、もう好きな女としか見れないってことだ。
「手伝ってくれてありがとな、ハルチカ」
「いえ!全然!」
手を動かしつつニコッとハルチカは笑う。
今は夕食後。俺とハルチカはキッチンの流しにいて、一日分溜まった皿洗いをしている。ハルチカが食器に洗剤の泡を纏わせて、それを俺が受け取り水で洗う、二人一組の流れ作業だ。
元は皿洗いは俺が一人でやっていたのだが、ハルチカがシェアハウスに来てからは彼女が手伝ってくれるので、二人の日課になった。
互いに黙々と作業を行う。――不意に、皿を受け渡しする際に指が触れた。
「!」
少しドキッとする。が、そんな俺とは対照的に、ハルチカは「あ、すみません」と至って普通だった。
「いや、別に……」
なんとなく悔しいような、寂しいような、微妙な気持ちになる。
――何意識してんだっての。こいつは高一だぞ。まだ未成年……。
「優さん」
「っ!?」
手の甲でトントンと肩を軽く叩かれ、うっかり思い切り驚いてしまった。
ハルチカを見ると、彼女も驚いた顔をしている。
「……すみません」
「いや、俺こそ……。ごめんな、ちょっとボーッとしちまってて」
「あ、はい。それは全然大丈夫です」
明るく笑った後で、「でも、あれなら私、一人でお皿洗いますよ?」と気遣ってくれる。
なんだか、無性に抱きしめたくなった。
ってアホか俺は……!!
「気持ちは嬉しいけど、気分が悪いとかじゃねえから、いいよ。どうせもうすぐ終わるしな」
「……分かりました。優さんが大丈夫なら」
「おう」
「ねぇ遙悠、それ終わったらラスボス倒すの一緒にやらない?前にやりたいって言ってたよね」
「!ありがとー!やりたい!」
リビングから飛んできた藍の言葉にハルチカが嬉しそうな顔になって、――自分の中で湧き上がった黒い感情を、ぐ、と、心の奥底へ押し込める。
俺はシェアハウスの最年長で、管理人同然の様々な役割を担っている。同じ屋根の下に住む女子高校生に恋など、してはならないのだ。
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……わかってたのに、な。
「……あーあ。俺が落ちてどうすんだよ」
藍とゲームをするハルチカを見つめながら呟いた時、小さな自嘲が唇の隙間から零れた。
叶と理央がハルチカに惹かれ始めていると気付いたのは、つい最近のことだ。
二人を応援したいと思っていたのに――俺もハルチカを好きになってしまって、その上引き返せそうになくて。
藍が恐らく一番の被害者だ。ハルチカに恋愛感情はないのに、俺達に一番嫉妬される立場にいるから。
いや、やはり一番はハルチカか。男しかいない中で暮らすだけでも大変だろうに、そのうちの三人から好意を持たれているのだから。
……ごめんな。みんな。
俺だけは絶対、ハルチカを好きになるべきじゃなかった。止められなくて、抑えられなくて、ごめんな。
――けどまあ……ここまで来たらもう、しょうがないよな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。