校内の掲示板に張り出されているクラス表を叶と見上げる。
私は1組か……。叶は何組だろう。同じじゃないといいんだけど……。
「お前も1組か」
叶がぼそりと呟いた。
聞き間違いであればどんなによかったか分からないが、あいにく私は耳がいいことを自負している。
表情筋が一瞬、働きを停止した。
「え゛……“も”ってことは」
叶がニヤリと悪役感満載の笑みを浮かべる。
「名前前後なのに気付かなかったのか?ヨロシクな、佐藤さん」
「!!」
即座にクラス表を見直すと、確かに「佐倉」と「佐藤」が1組の名簿にあり、しかもその二つは縦に並んでいた。
き――気付かなかった……!自分の名前探すのに夢中で……。アホだわ。
「つーことで行くぞ。クラス」
「え、ちょっ……ま、待って!!」
一人で行くのはなんとなく寂しいので、慌てて叶を追いかける。
その時の私は、まだ何にも気付いていなかった。
ーーーーー
教室に入り、黒板に張ってある座席表を見る。
やはりというか出席番号順で、私はがっくりと肩を落とした。
「お前、俺の前なんだな」
「そうだよ……えっ、何その笑み、何するつもり?」
「なんだその言い方。まるで俺が何か企んでるみてぇな」
「実際そうでしょ!?授業中にちょっかい出してきたりしたら許さな――」
突然ぐっと腕を引かれ、叶の胸にダイブさせられる。
男子とこんな体勢になったのは初めてで、いきなり何と思いつつちょっとドキドキしていれば。
「邪魔になってたぞ、お前」
「……は?」
苛立ち混じりの疑問の声を上げる。
「ずっとあそこに立ってたら他の奴が座席表見れないだろ、考えろ」
そう言われて、我に返った。
振り返れば、私がさっきまでいた場所に立って自分の席を確認する人も見えて、私は反省した。
一つのことに意識が向いてたら他のことが見えなくなるところ、直さないとなぁ……。
「ごめん。ありがと」
言い終わってからハッとした。
また“貸し”って言われる!!バカ自分……くそっ、今日は2つか……。
「あぁ」
「……え?」
「あ?なんだよ」
「い、いや!!」
あれ?「貸し2」ってあの悪い顔で言わないの……?
てことはまだ貸し1!?やった!!
私はるんるん気分で席に着き、予鈴を待った。
ふ、と叶が口元を緩めて笑う音は、のどかなチャイムにかき消される。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!