第23話

【番外編】②-意外と手が早いのは
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2019/02/09 16:00
階段を上りながら、優一郎は小さく息をついた。

遙悠が起こしに行けば、まず間違いなく理央に襲われる。それはなんとしても回避しなければならない。つまり、今日から藍たちを起こすのは自分の役目にするのだ。

まあ、遙悠がシェアハウスに来る前の状態に戻るだけだ。そこまで手間ではない。


――さて、誰から起こすか。

一番最初に起こした奴は、そいつがすぐ一階に下りた場合、遙悠と二人きりになる。慎重に選ばなければ。

理央は絶対にダメだ。叶はなんだかんだ遙悠を大事にしているから心配はなさそうだが、告白の際(額にだが)キスをしたのは叶だけだった。藍は手を出すイメージがない。他の二人よりは多分、安全だ。

よし、藍にしよう。

藍の部屋のドアをノックし、中に入る。

「藍ー、起きろー」

「ん……。あれ、優?……久しぶりだね、起こしに来るの……」

目を閉じたまま眠そうに喋りながら、藍がベッドから出てきた。

ああ、と優一郎は笑う。

「飯できてるぞ」

「ん……」

優一郎が入口を退く。藍はそこを通って、階段へ続く通路を歩いていった。

それを見届けるとドアをきちんと閉め、優一郎は次――理央の部屋に向かった。

ドアを開けた瞬間、中に引き込まれる。

「おはよ……って、優?」

完全に口説きモードだった理央が、ぽかんとした顔になる。

優一郎は威圧的にニッコリ笑った。

「お前、毎朝ハルチカにこうやって口説いてたんだな」

「!!いやっ!口説いてない、口説いてないよ!」

「嘘つけ。二度とハルチカをお前の部屋に近付けねえからな」

「ゆ、優くんー!!」

そんな冷たいこと言わないでよぉぉ、と涙目で迫ってくるが優一郎は構わずドアを閉めた。

どうせ嘘泣きだ、構うだけ無駄である。

最後は叶――と踵を返した時、目の前に本人がいることに気付いた。

「はよ叶。自分で起きれたんだな」

「……ハルチカ助けるために最近は起きてたけど。明日からは寝ることにする」

叶は言い終わったあとで、しまった、という顔をした。

失言だった――怒られる。

「はぁ?……まぁ、いいけど」

優一郎は一瞬怪訝そうにしたが、叶の発言を咎めはしなかった。

――二人も三人も変わらない。とはいえ、もう少し自主性を身につけてほしいものだ。

「下降りるぞ。……って、なんだその顔」

「……いや、お前ってそういう奴だったよな、と思って」

「? なんだそりゃ」

首を傾げつつ優一郎が階段に向かい、リビングへ下りていく。

叶はなんとも言いがたい表情で後頭部を掻いた。





そして、優一郎は目を丸くする。

「遙悠。こっち見て」

「っ……」

藍が、遙悠にいわゆる顎クイをしていた。

唖然とする優一郎を追い越し、叶が藍を遙悠から引き離す。

藍は無自覚に誘惑していたため、なぜ離されたのか理解していない様子だった。

「何?叶。痛かったんだけど」

「自業自得だろうが。朝からやめろ、しかも俺がいないところで」

「なになに!?誰が何したの!?」

「あ、理央くんおはよう」

一気に騒がしくなるリビング。

優一郎は、遠目から恋敵ライバル達を見ながら、ぼそりと独りごちた。



「……意外と手が早いのは、藍かもしれねえな……」

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