あれから二週間が経ち、入学式の朝。
目覚まし時計の音で時間通り起床し、寝巻きから制服に着替え、リビングに降りる。
キッチンには見慣れた姿があった。
「おはようございます」
「お。はよ、ハルチカ!」
ニコッと笑いかけてくれる、優さん。
シェアハウスでは、食事は朝昼晩すべて優さんが作ることになっている。
「ちょうどできたとこだ。ほい」
椅子に座った私の前に、朝食が乗った皿を置いてくれる。
今日はフレンチトーストらしい。
「美味しそう……私これ大好きです!」
「だろうな。ん、ハチミツ。かけるだろ?」
「はい……え?知ってたんですか?私が優さんのフレンチトースト好きだって……」
ハチミツの入った小瓶を受け取りながら尋ねる。
優さんがふっと声もなく笑った。
「最初に食べた時自分で言ってたろ」
「……まぁ、確かに。覚えててくださってありがとうございます。いただきます」
合掌してナイフとフォークを手に取る。
フレンチトーストを切り分け、口へ運ぶ様子を、優さんは向かいの席から見つめてきていた。
「美味しいです……!優さん大好きです!」
「はは、嬉しいけど、他の男には簡単に好きって言うなよ?勘違いされるぞ」
「言いませんよー。そんな」
そこでふと、ダイニングテーブルに置かれている私たち以外の朝食に気付き、げんなりする。
「……あの人たち、今日が入学式だって分かってるんですかね?」
すると、優さんも心なしかげんなりした。
「……さぁ、どうだろうな。でも放っといたら昼まで寝てそうだよな」
「ったくもう……!」
荒々しく席を立った私に、優さんが「ごめんないつも」と苦笑して言った。
優さんのせいじゃないですよ、と笑顔を返し、リビングを出て二階への階段を上る。
シェアハウスを始めて二週間。シェアメイトについて分かってきたことはたくさんある。
その一つが――優さん以外みんな、朝に弱いことだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!