新しいシェアメイトがシェアハウスに加わって、約十日。
佐藤遙悠という、苗字の割に変わった名前のその女は、今、俺の隣でカートを押している。
「えーっと……あと何だっけ」
「醤油」
「おっけー!」
ハルチカはニコッと笑って、結構多いんだなーと呟きながらカートに載せている買い物カゴの中を覗き込む。
春休みも残り僅かとなった日の夕方。予定がなくリビングでくつろいでいた俺とハルチカは、優に頼まれてシェアハウス近くのスーパーまで買い物に来ていた。
優は滅多に人を頼らないのだが、さっき帰ってきた時のあいつはかなり憔悴していた。
『ハルチカ……叶……悪い、買い物に行ってきてくれねえか……?』
『ど、どうしたんですか優さん!?もちろん行ってきますけど!!』
『はは、ちょっとな……。サンキュ……』
ハルチカの頭を撫でてやる気力もないようで、力なく笑うと優は鞄を床に放ってソファに倒れ込んだ。
そしてそのまま気絶した。
『えっ、優さ……!?優さん……!?』
『大丈夫だっつの。たまにある』
俺は優の鞄の側にしゃがみ、迷いなく開けた。
中から財布を掴み上げ、一枚のメモを取り出して上着のポケットに突っ込み、あとは元通りにする。
優はお人好しで、決して騙されやすいわけではないが、信頼している人が相手の場合、結果的に罠にかかってしまうことがある。
今回もきっと、普通に男だけで遊ぶのだと思っていたら合コンだったとか、そんなところだろう。いつしかハーレム状態になってしまって、迫ってくる女達をお人好しなために上手くあしらえず、精神を削られていく優の姿が容易に想像できる。
まぁ、この顔でこの性格だから、仕方ない。
『行くぞ』
『う、うん!』
一瞬優を心配そうに見やってから、ハルチカは俺についてきた。
そうして経緯を思い返した後、大小様々な醤油の瓶を前に唸っているハルチカへ目を注ぐ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。