足音が聞こえたと同時に、梨咲が焦ったように立ち上がり、
練習場から去ろうとする。
先程までの態度とは打って変わって、
私と距離を取ろうとする梨咲に疑問を覚える。
おかしい、何かがおかしい。
そう考えている間にも梨咲は普段使わない方の出口から練習場を出てしまっていて、練習場には私一人になっていた。
あの行動の速さ…さては先生にでも追われてるな?なんて予想をしてみると、思わず口角が上がる。
梨咲は良い奴なのに、真面目に課題をやらないからしょっちゅう職員室に呼び出されてて……うん。
やっぱり考えれば考えるほど、
梨咲が来た理由が先生から逃げる途中で寄ったというものしか考えられなくなってくる。
ま、私に出来ることは、先生に『梨咲はいません』って伝えることくらい。
そんなことを考えながら私は立ち上がり、
練習を再開しようとCDをかけた。
その時。開けっ放しだった練習場のドアに人影が映った。
先に先生追い払っちゃおうかなーなんて軽く考え、
私はCDを流したまま、ドアへと向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。