広い廊下に明るい声が飛び交う。
大きなひとつの輪になったダンス部は、
圧倒的な存在感を発揮していて、
大手の部活であることを周りに分からせるには十分すぎるくらいの盛り上がりだった。
その中で優しく笑う、一際私の視界に入る先輩。
涼先輩の顔を見たのは最後の発表の日以来で。
会っていなかった日の想いが溢れてるかのように、
私は先輩から目が離せなかった。
先輩をこうして見ることも、今日で最後。
卒業してしまえば、こんなただの後輩が光に触れることはもう……ない。
ふと、小声で梨咲が私の耳元に囁く。
言いたいことはわかっていた。
何をさせようとしてるのかも分かっていた。
私がするかしないかを迷ったことについてだった。
涼先輩は笑ってた。
ダンス部の同級生に囲まれて、
楽しそうに笑っていた。
"先輩は遠い存在すぎるよ"
そんな言葉が口から出てこようとして、
でも音にしたらそれが自分の心に改めて深く刺さりそうで、私は口に出すことを拒否した。
そんな私の様子を見て察したのか、
梨咲は優しく私の背中を撫でた。
普段とは違う、梨咲の口調に思わず目が潤む。
行かなかったら後悔するのは私。
そう、梨咲の言う通りだ。
最初で最後のチャンス。
憧れ続けた存在に想いを伝えるチャンス。
このままでいいのか、逃げ続けていいのか。
私は、この感情を殺せるのか。
それを考えた時、私は足を踏み出していた。
その微かな声は、梨咲の耳には届いたようで、
と、梨咲は優しく微笑んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。