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無事に体育祭を終え、教室でのホームルームを終えた後、僕とヒナタ、そして彼女は下足室に居た。
どうやらタクミは委員会で残って、片付けをするらしい。
いつものおしゃべりマンが今日は静かだ。
僕が後ろに振り向き、彼女の顔を見る。
「戻ってたらいいな、みたいな!」と、またヘラヘラ笑う。
それに、「え、何それ、大丈夫なの?」と心配するヒナタの声が下足室に響く。
いや、普通は笑えないと思うけど。
そう言うと、彼女は下足室で自分の靴棚を見る。
僕がクスッと笑うと、彼女が「うん!」と再び笑い始める。
ヒナタが外の様子を見ながら、僕に聞いてくる。
と、彼女の手提げ袋から折りたたみ傘を取り出す。
『す』?
彼女がヒナタに「しーーっ。」と人差し指を自分の唇に当てる。
彼女はそう言うと、折りたたみ傘を僕に押し付け、走って下足室を出ていってしまった。
校門を出た所で、彼女が僕達に振り返って大きく手を振る。
「あぁーー、ヒントあげちゃったぁぁぁ!」と、ヒナタが残念そうな声を上げる。
そうか、「す」から始まるのか。
そこからは2人で1つの傘に入り、帰っていくことにした。
途中までヒナタを送るつもりだったが、ここは家まで送ってあげた方がいいか、と考え直し、家まで送ることにした。
家まで行くのに何度も断りの言葉を貰ったけど。
家に着くなり、ヒナタが「ありがとう。」と感謝を伝えてきた。
ヒナタがクスクスっと笑う。
そう言われて、気づく。
確かに結構濡れていた。
あぁ、そうか。
彼女が言ってた喧嘩早いって、このことか。
突然の言葉に戸惑う。
ヒナタの目はどう見ても、僕にした、という訴えの目だった。
僕は彼女から貸してもらった傘を右手に、ヒナタの目から視線を外した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。