第3話

応 援 旗 の 不 器 用 。 ②
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2018/03/24 07:19
案の定、昨日、帰りに思った通りだった。

彼女が描いたデザインの下書きに昨日は軽く色をつけていったが、今日はガッツリ塗っていく。

けど、展開は分かっていた。
彼女
待ってよ、本当に不器用だね。なんか、凄いぐらいに、はみ出てる。
はぁ。
大きくため息をつくと、また「きゃはきゃは」と笑い出す。

笑い方をまず、どうにかしてくれ。
タクミ
そういえば、ヒナタはクラス対抗50メートルハードル競走に出るんだっけ?
タクミが大きなハケで赤い絵の具を塗りながら、ヒナタに話しかける。
ヒナタ
うん〜、まぁね。
細筆で丁寧に黄色を塗っていくヒナタは、僕に向かって、「タクミとクラス対抗二人三脚リレー…だっけ?」と問うてきた。
うん、走るの速いかどうか分かんないし。
ヒナタ
あぁ〜。
相槌をうつと、ヒナタは「なるほどね。」とも言った。
タクミ
で、唯一、この中でブロック対抗リレーに出るのが、
彼女
はい、はーい!私〜!
と、彼女が大きく手を挙げる。
ブロックって、赤組、青組…的なやつだよな?
ヒナタ
そうそう〜。
タクミ
ブロック対抗は、クラスの代表の男女1人ずつが出て来るんだよなぁ。
ヒナタ
だから、クラスで1番早い○○君と
彼女
私が出るんでーす!
ふーん。
ま、正直、走りの早いようには見えないんだけどな。
彼女
あ、私、遅そうに見えるって思ってるでしょ?
ギクリ、図星だ。
彼女
これでもクラスの女子でちゃんと1番早いんだよ〜!
ちゃんと、ってなんだよ。
本当かよ。
彼女
本当だってばー。
彼女が言い張るのを聞いてから、「はいはい」と適当な返事をする。
彼女が絵の具を塗っているのを見て、1つ気づいたことがあった。
しばらくポニーテールをしていたのに、今日は髪を下ろしていた。
その髪が絵の具につきそうなので、一応、言ってみる。
髪、結んだら?
彼女
え、あー、あぁ〜。今日はいいんだ、下ろしておきたい気分。
いや、でも、髪に絵の具が付くよ。
彼女
帰って、すぐにお風呂に入ればいいよ、大丈夫!
どうやら、どうしても髪を結びたくないようだ。

ま、別にどうでもいいけど。




結局、僕達は最終下校まで残り、応援旗制作の約4分の1を終わらせた。
体育祭は一週間後。

間に合えばいいけど。

僕がそんな事を考えていると、昨日と同じように僕と彼女だけで交差点まで歩く事になった。
彼女
体育祭、優勝できたらいいね〜。
ん、あぁ、そうだね。
彼女
あれ、あんまり楽しみじゃない感じ?
まぁね、運動とか苦手…だと思うし。
彼女
そうかなぁ…、喧嘩早くて、喧嘩強いところあると思うけどなぁ…
彼女の言葉に、僕は思わず、「どういうこと?」と聞く。
彼女は「いや、…うーん、ま、そのうち分かるよ。」と、1番困る誤魔化し方をされた。
彼女
体育祭…、何も無ければいいんだけど。
別に無いだろ。
彼女
…うん、そうだね。考えすぎだぁ!
僕はいつもヘラヘラしている彼女がこんな事を言うと思っていなかった。

その後もくだらない話をしながら、交差点の前まで来る。
彼女
応援旗作るの、頑張ろうね!
やめろやめろ、叫ぶな。

僕は黙って、青に変わった交差点を渡っていく。

僕は今日、いくつかの出来事に気づく事ができなかった。

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