案の定、昨日、帰りに思った通りだった。
彼女が描いたデザインの下書きに昨日は軽く色をつけていったが、今日はガッツリ塗っていく。
けど、展開は分かっていた。
大きくため息をつくと、また「きゃはきゃは」と笑い出す。
笑い方をまず、どうにかしてくれ。
タクミが大きなハケで赤い絵の具を塗りながら、ヒナタに話しかける。
細筆で丁寧に黄色を塗っていくヒナタは、僕に向かって、「タクミとクラス対抗二人三脚リレー…だっけ?」と問うてきた。
相槌をうつと、ヒナタは「なるほどね。」とも言った。
と、彼女が大きく手を挙げる。
ま、正直、走りの早いようには見えないんだけどな。
ギクリ、図星だ。
ちゃんと、ってなんだよ。
彼女が言い張るのを聞いてから、「はいはい」と適当な返事をする。
彼女が絵の具を塗っているのを見て、1つ気づいたことがあった。
しばらくポニーテールをしていたのに、今日は髪を下ろしていた。
その髪が絵の具につきそうなので、一応、言ってみる。
どうやら、どうしても髪を結びたくないようだ。
ま、別にどうでもいいけど。
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結局、僕達は最終下校まで残り、応援旗制作の約4分の1を終わらせた。
体育祭は一週間後。
間に合えばいいけど。
僕がそんな事を考えていると、昨日と同じように僕と彼女だけで交差点まで歩く事になった。
彼女の言葉に、僕は思わず、「どういうこと?」と聞く。
彼女は「いや、…うーん、ま、そのうち分かるよ。」と、1番困る誤魔化し方をされた。
僕はいつもヘラヘラしている彼女がこんな事を言うと思っていなかった。
その後もくだらない話をしながら、交差点の前まで来る。
やめろやめろ、叫ぶな。
僕は黙って、青に変わった交差点を渡っていく。
僕は今日、いくつかの出来事に気づく事ができなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。