タクミが送ってくれた彼女の住所をケータイの地図アプリに打ち込み、案内してもらうことにした。
意外にも僕の家からはかなり近かった。
『ピーンポーン♪』
インターホンを押すが反応が無い。
あれ、出かけてるのか?
僕がドアに背を向けて、歩き始めようとすると、『ガチャッ』と音を立ててドアが開いた。
パジャマのような部屋着姿に、マスクを付けた彼女は咳をいくつかしながら出てきた。
僕が差し出すと、「わざわざありがとう。」と彼女が門を開けて、弱そうな手で受け取ろうとする。
と、そのまま前に倒れ込んできた。
僕は彼女が「大丈夫」と言いつつも、いつまでも倒れ込んできた状態なので、僕が彼女の膝の裏と背中に手を回す。
僕は彼女を抱えたまま、開けっ放しの玄関に足を踏み入れる。
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彼女をベッドで寝かし、目を覚ますまでには帰るつもりだったが、意外と早かった。
彼女は少し驚いて、「す、すみません。」とベッドの上で座って丁寧にお辞儀をした。
僕の後ろに並んでいる、美しいほどに綺麗に畳まれた大量のTシャツだけの洗濯物に、
…なんだと。不器用なのは自分でも分かっている、だから、それなりに、僕なりに努力したのに。
でも、それ以上は彼女も何も言わずに、けれど、いつも通りに笑って見せた。
彼女は笑いながら、「多分、そこのメモ見たんでしょ?」とテーブルの上の紙を指さす。
僕は「うん。」と答えた。
そう言った彼女は「ふぅ、」ゆっくりと息を吐いた。
彼女が僕の発言にクククククッと笑い始める。
彼女は「それに、卵もまともに割れなさそうだし。」とからかってきたので、僕は「はいはい」といつも通り返す。
あながち間違いじゃないけど。
と、ベッドの布団の中に彼女が戻っていく。
そして、僕に手を差し出した。
???
すると、彼女が「変なお願いしていい?」と、僕に聞く。
僕は迷ってしまった。
昨日のヒナタの言葉が思い出されたから。
けど、何でだろう。
僕は手を握っていた。
そう言うと彼女が目を閉じる。
いつもヘラヘラ笑う彼女が今日は弱く見えた。
それは発熱のせいだからだろうか。
彼女は静かに眠りに落ちていった。
眠るまで早すぎだけど。
頑張るって何を頑張ってるんだ?
僕は目を細め、彼女の頬に貼られた湿布を優しく撫でた。
僕の少し遅れた返事は多分、彼女に聞こえてないと思う。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。