第8話

家 事 の 不 器 用 。
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2018/03/24 07:21
タクミが送ってくれた彼女の住所をケータイの地図アプリに打ち込み、案内してもらうことにした。
意外にも僕の家からはかなり近かった。

『ピーンポーン♪』

インターホンを押すが反応が無い。

あれ、出かけてるのか?

僕がドアに背を向けて、歩き始めようとすると、『ガチャッ』と音を立ててドアが開いた。
彼女
どな…たですか?
パジャマのような部屋着姿に、マスクを付けた彼女は咳をいくつかしながら出てきた。
あ、これ、昨日借りた傘。
僕が差し出すと、「わざわざありがとう。」と彼女が門を開けて、弱そうな手で受け取ろうとする。

と、そのまま前に倒れ込んできた。
お、おい、大丈夫かよ。
彼女
うん、大丈夫…
僕は彼女が「大丈夫」と言いつつも、いつまでも倒れ込んできた状態なので、僕が彼女の膝の裏と背中に手を回す。
僕は彼女を抱えたまま、開けっ放しの玄関に足を踏み入れる。
お邪魔します。




彼女をベッドで寝かし、目を覚ますまでには帰るつもりだったが、意外と早かった。
彼女
…ん、
起きた?
彼女は少し驚いて、「す、すみません。」とベッドの上で座って丁寧にお辞儀をした。
いいよ。
彼女
あ…。
僕の後ろに並んでいる、美しいほどに綺麗に畳まれた大量のTシャツだけの洗濯物に、
彼女
待って、畳み方、凄いよ?!
え。
彼女
どうやったら、こんなに色んな形になるの?(笑笑)
…なんだと。不器用なのは自分でも分かっている、だから、それなりに、僕なりに努力したのに。
…悪かったな。
でも、それ以上は彼女も何も言わずに、けれど、いつも通りに笑って見せた。
彼女
ありがとう、畳んでくれて。助かりました。
ん。
彼女は笑いながら、「多分、そこのメモ見たんでしょ?」とテーブルの上の紙を指さす。
僕は「うん。」と答えた。
彼女
お母さん、今日仕事でさ、実は私が熱あるの言ってないんだよね。
言えばよかったのに。
彼女
ん〜、ま、家事は分担してやるって決めてるし、迷惑かけたくないから!
そう言った彼女は「ふぅ、」ゆっくりと息を吐いた。
…何か、作ろうか?
彼女
へ?
卵がゆ…とか。
彼女が僕の発言にクククククッと笑い始める。
彼女
いーよ、いーよ!遠慮しとく。食欲無いし。…君にも悪いしね。
そーか。
彼女は「それに、卵もまともに割れなさそうだし。」とからかってきたので、僕は「はいはい」といつも通り返す。

あながち間違いじゃないけど。
彼女
今日はサービスです。お名前のヒントをあげましょう。
何?
彼女
下の名前はね、最近公開した映画の主演さんと同じ名前だよ。
で、その名前は?
彼女
言わなーい。
と、ベッドの布団の中に彼女が戻っていく。
そして、僕に手を差し出した。

???
誘ってんの?
彼女
違う!!!!!
すると、彼女が「変なお願いしていい?」と、僕に聞く。
うん。
彼女
私が眠るまで、握っててくれない?
は?
彼女
いーから、いーから。
僕は迷ってしまった。
昨日のヒナタの言葉が思い出されたから。

けど、何でだろう。


僕は手を握っていた。
彼女
本当に握ってくれるんだ…
そう言うと彼女が目を閉じる。
いつもヘラヘラ笑う彼女が今日は弱く見えた。
それは発熱のせいだからだろうか。
彼女
君がそう応えてくれて良かった、もう少し…頑張れ…そ…
彼女は静かに眠りに落ちていった。
眠るまで早すぎだけど。

頑張るって何を頑張ってるんだ?

僕は目を細め、彼女の頬に貼られた湿布を優しく撫でた。
うん。
僕の少し遅れた返事は多分、彼女に聞こえてないと思う。

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