時はかなり飛んで、あれから一週間後。
とうとう体育祭がやってきた。
今日は午前中は天気がいいようだが、午後から雨が降るかもしれないらしい。
ま、大丈夫だろうけど。
心配しなくても、応援旗はしっかり3日前に完成した。
現に、今、応援がてらに応援席の後ろで、クラスの奴らが振っている。
…序盤はヒナタのクラス対抗50メートルハードル競走。
僕が応援席の椅子に座り、ぼーっとグラウンドを眺めていると、タクミが隣に来た。
そう言って、渡されたのは緑のハチマキだった。
そんなどうでもいい事を言うと、僕は即座にハチマキを半分に折り、中心をおでこに当てて、後ろでキュッと結ぶ。
タクミもしっかり結んだようだ。だが、僕に視線をやるなり、「本当に不器用だな」と、今度は笑ってきた。
聞き返したタイミングで、彼女が走って、この間に割り込んできた。
タクミの問いに、「多分。」と答えると、タクミはすぐさま立ち上がって、先生の所に行ってくる、と走って行ってしまった。
と、今度は彼女が隣の席にやってくる。
先程のタクミの『不器用』という言葉が気になり、次は何が不器用なのか、知りたくなってしまった。
笑われるって事は、恥ずかしいって意味なんだろうし。
でも、おしゃべりマンには聞きたくないんだよなぁ。
けど、仕方が無い。
彼女はこの数日間と同様に、また「きゃはきゃは」と笑って、「後ろ向きなよ。」と僕に言う。
彼女は僕が結んだリボンをはらりと外すと、僕に丁寧に結び直してくれた。
今度はリボンは横になっている…らしい。
僕が再びグラウンドに視点を戻そうとして、初めて気づいた。
僕側の耳付近の頬の方に、あおく、内出血している痣が姿を現していた。
『転んだ』? 転んだだけでこんな痣が出来るのか?
僕が不信に思い、彼女の顔を見つめると、
と、その痣を手で隠すようにして笑う。
だから、1週間前のあの時は髪を結ばなかったのか。
僕は1週間前くらいに、やけに結ぶのを嫌がった彼女に納得がいった。
でも、『転んだ』というのはどう考えても嘘くさい。
ま、別に関係ないけど。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。