第5話

体 育 祭 の 不 器 用 。 ②
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2018/03/24 07:20
体育祭は最後の大目玉種目である、ブロック対抗リレーに近づくに連れて盛り上がりを見せていた。

今の所、僕達のブロックが2位。
1位との差はぴったり30点。
まぁ、追い越せない範囲ではない。

彼女が頑張ってくれれば、だけど。
今日も馬鹿みたいにお昼食べてたし、
動けるようには思えないけど。

僕は入場門に並ぶ彼女を、応援席から見ていた。
今やっている大人達の玉入れの種目が終われば、その次だ。

僕は目がいい。
だからこそ、入場門できょろきょろしている彼女の不審な動きにも気づけた。

隣に座っていたタクミに聞いてみる。
なぁ、霜村さん、何してる?
タクミ
ん、俺、目悪くて見えない。
タクミがそう言うと、俺は「そか。」と返す。
タクミ
…霜村さん…のこと、嫌いになったのかと思ってたけど、わりと気にしてるんだね。
タクミがにやにやしながら、そんな事を言ってきた。
" 嫌いになった "?
僕が聞き返すと、タクミは「あ、これ、言っちゃまずかったかな。」と苦笑いをした。

僕が事故に遭う前は、彼女を好きだった、という事だろうか。
僕はまだきょろきょろしている彼女を見つめる。

いや、多分、恋愛対象じゃないな。
ちょっと行ってくる。
タクミ
ん。
僕は走って、入場門の所に着く。
彼女も僕を見つけた途端、こっちに来たかと思うと僕の手を引き、少し離れた校舎の影へと誘導する。
彼女
ごめん、急なお願いなんだけどさ。
人差し指で痣のある頬をかきながら、いつものようにヘラヘラ笑っている。
何?
彼女
靴、
靴?
彼女
貸してくんない?
は?

僕の口から「?」という言葉が出てくると、彼女はまた笑って、「やっぱ、ダメだよね。」と話す。
いいけど、サイズは?
彼女
ん、履ければなんでもいーよ。
てか、霜村さん、靴は?
彼女
ん〜、無くなっちゃった?
なんで、疑問形なんだよ。

僕は1つ大きなため息をつくと、自分の靴を脱いで、彼女の靴…って、は?
もしかして、お昼終わってからずっと上靴だったのかよ。
彼女
まぁーねー。
履き替えると、彼女は「じゃっ。」と敬礼のポーズを軽くとると、そそくさと入場門に戻っていった。

靴が無くなることなんてあるのか?

彼女が走る後ろ姿を見て思った。
そんな事が日常で起きるのか。

…いや、そんなわけないな。

僕は上靴で応援席に戻ると、確実に先生に怒られるので、校舎の影から少し出て、彼女のリレーを見ていた。

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