シルクside.
明くる日の午後。
歩みを進める俺の足は、どこか弾んでいた。
いつも何気なく通り過ぎていた路地を曲がる。
スマホの現在地と地図上の目的地が近づいていく。
目の前に現れた、白色のアパート。
...うん、写真とそっくり。
階段を登り、すぐ右を向く。
...ピンポーン。
インターホン越しの声が途絶えると、数秒後に鍵が開く音がした。
足を進めると、部屋の全貌が目に入る。
...やっぱ、綺麗な部屋だな...。
白基調の部屋で、どこかモトキさんらしい。
物が最低限しかなく、几帳面なのが伝わってくる。
「是非座ってください」という彼の声に、その場にあった椅子に腰を下ろす。
何故かドアの前から動かないモトキさんが俺の名前を呼ぶ。
そういうと、彼はとても嬉しそうに笑った。
...とても、嬉しそうに。
まるで、花が咲くように。
その瞬間、時が止まった。
比喩ではなく、本当に止まったようだった。
ただ、体が徐々に粟立つ感覚だけが、時の流れを自覚させた。
差し伸べられた手を、反射的に振り払う。
困惑している様子の彼に目を向け、そう発する。
俺の視界に映る、すっかり見慣れた顔。
その顔が一瞬、「何か」によって遮られる。
目の前で嗤う男の周りには、鮮やかな花が散っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。