第8話

家畜
 「ひよ、家畜ってどういうこと?」

「先生·····そこから話し始めたら帰るの遅くなっちゃうよ?」

「いいさ別に。プライベートより苦しんでる生徒の方が大事だろ?それに遅くなったらひよをあたしの車で家まで送る。」

「わかった。」






小さい頃からだった。割と昔の記憶もちゃんとある。例えば母親に連れられて公園に行った後、帰ってくるのがこわかった。

「てめぇ、言うこと聞けよっ!!」

玄関の扉が閉まった途端、さっきまでニコニコしていた母親が物凄い形相で私を睨んでた。

私の片腕を引っ張って、投げるように真っ暗な部屋に入れる。ドアノブに手が届く身長じゃないし、もちろん電気のスイッチにも触れられない。

「いやだぁぁぁ!!ごめんなさい!!ママぁ!!」

どんなに激しく扉を叩いても、母親の気が済むまでずっと閉じ込められられていた。

泣き疲れて、眠って、起きて、まだ目の前は暗かった。怖くて目をつぶって楽しいことを一生懸命思い出した。

少しでも家の外で母に逆らったら、その場で怒らない。家に帰って全ての鬱憤を吐き出され、幼い私はそれを受け入れることしか出来なかった。逃げることは、絶対に出来なかった。

外ズラのいい人だから、表では「理想のお母さん」だった。

妹は母のコピー。私を罵ったり、暴力をふるっても許される。お腹を思いっきり蹴られても、やり返しちゃだめ。そしたら私も悪いことにされちゃうから。妹は時々、父や母にも悪態をつくけど、やっぱり妹は可愛いから。

この歳になってまでわざとらしい間違いをしたり、幼い甘え方をするの。

父と母のケンカがヒートアップして、止めに入る時妹はだいたい母側についているから、私は父に寄ってあげる。そうしないと、三対一になって離婚話に発展しちゃうから。それで一時的に冷戦になっても、傷つくのは私。

『お前は八方美人』だの『クズ人間』呼ばわりされて·····うん、私が悪者。

父は、私が母や妹から嫌がらせとか聞こえよがしに悪口を言われていても聞こえないふりをする。 時々あの二人の言いなりになって私が三対一で責められたり。



と、ここで私はため息をついた。胸がわしづかみされたようにじくじくと痛む。ものすごく体力を消費したのだろう。額や背中の冷や汗が止まらない。