第15話

「変える」より「変わる」
 なにか状況を変えたくて、自分も前に進みたい時、人を動かすことはとても難しい。

「あなたは間違ってる」

たとえそう言えたとしても、相手の本質を正すことは出来ない。私の言葉に逆上して、今よりもっと生き辛くなってしまうだろう。

だから私は、受け入れるしかなかった。

不条理さにやるせない気持ちがわいても、黙って飲み込むことが唯一の抵抗だった。武器だった。

家族の生き方や考え方を私の力では曲げられないのだから。

曲げられないけど。

だけど。

1人で抱え込まなくてもいいのだと、先生は言ってくれた。

それだけでとても救われた気持ちになる。スっと心が軽くなり、ぽろぽろと流れ落ちる涙はいつものような冷たく哀しいものではなくなっていた。

「先生、私頑張るから。」

上履きが擦れる音が響く、静かな廊下。

「無理しないでよ。」

「勉強して立派な大人になる。先生みたいな先生になりたい。」

「んんー、嬉しいな。でもあたし厳密に言うと先生じゃないんだよなぁ。一応司書だからさ。」

「それでもいいの。生徒に寄り添える優しさを持った先生になるんだ。さっき決めた。司書だろうと社会や英語の教師だろうと先生は先生だよ。」

ふぅん。そう言って先生は両手をパンツのポケットに入れる。ツンと顎を上げて、照れくさそうにそっぽを向いた。

「人って苦労した分必ず報われるからさ、きっとなれるよ。逆に社会に出たら生きやすいかも。家庭が家庭なだけにね。上司から無理難題言われたり、黙れクソジジイ!!って言いたくなるようなこと説教されたりしても、あんたなら上手く流せそう。」

「ちょっと待って。その『クソジジイ』って小山先生でしょ。」

教頭の小山先生はとても口うるさくて、生徒だろうが先生だろうが感情的になるとネチネチ文句を言ってくる。

噂では校長先生も手を焼いているそうだ。

「さ~ぁ、どうでしょう~。」

誤魔化し方が下手くそな先生は階段を一段踏み外す。

「ま、とりあえずほどほどに頑張んなさいな。」

憂鬱だった明日を、少しだけ信じてみてもいい気がした。




fin