私は朝、いつも交差点で待ち伏せをしている。
けれど、声をかけることはない。いつも、見守っているだけだ。あの人を。
彼が私に笑いかけてくれることは、ない。私を見つけることも、ない。なぜなら、彼に会う時、いつも私は姿を隠しているから。自分を透明に見せる妖術。私はいつもそれを使う。
私はいつも見守っているだけ。だって、私は…。
妖怪だから。ただの妖怪なら、まだ良かったんだよ?妖怪が人間になる方法は、なくはないから。でも、私は日本にいる妖怪のお姫様。この地位を、簡単に捨てるわけにはいかない。
ちなみに、私の妖怪としての種類はないの。王族だけは例外なんだ。いろんな血が混ざってて、いろんな妖怪の妖術が使えるの。
さっきの透明にする技も、その一つね。
どうやら見えないようにしているはずの姿を、彼は見えてしまっているようだ。
バレてしまっていたからにはもうこれ以上彼をみに来ることはできないだろう。しょんぼりしながら歩き出すと、後ろから声をかけられた。
思わず、ピタッと、足を止めてしまった。
全速力で走り出す。本来、妖怪と人間は相容れないものだ。これ以上関わってはいけない。
これ以上関われば、怒られるどころでは済まないだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!