「可愛いね」
公園で待ち合わせして、開口一番そう言われた。
ぼっと自分の顔が沸騰する。
「……あ、ありがと」
「うん。すごい可愛い柄。浴衣センスあるね」
……ん?
あ、可愛いって浴衣のこと!?
勘違いに気付き、別の意味で顔がさらに熱くなる。その時、もう一度声が聞こえた。
「着てもらう子にあなたを選んだんだから」
…………?
私はしばらくその意味がわからなかったが、前の言葉と繋がってるのかな、と考えればパッと答えが脳内に浮かんだ。
「あ、センスあるねって、“浴衣の”じゃなくて『浴衣が』ってこと!?」
「?そうだよ」
当たり前のことを聞かれた時のような顔で首を傾げられる。
彼は、まず浴衣を褒めてくれ、浴衣が着用者に私を選んだことで、浴衣にセンスがあると言った。恐らく遠回しに私自身も褒めてくれただろう。
全てを理解した私は思わず苦笑した。
――浴衣が着る人を選ぶなんて、変わった発想。本当、不思議な人だなぁ。
じゃあ行こうか、と手を差し伸べてくれたこの人は、同い年の彼氏である幸人(ゆきと)くん。
AB型で、何を考えているかわからないミステリアスな人だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。