バッと顔を逸らした私を見て、凪くんがぼそりと呟く。
「……可愛い」
「か、かわいくないから!」
「なんで否定するんですか?会って一番最初にオレが『浴衣姿可愛いですね』って言った時、ありがとうって笑ってたじゃないですか」
不満そうにじとっと見つめられる。
なんで、と聞かれても。勝手に口から出ただけだ。
そう冷静に言えばいいのに、私はあたふたと惑うばかりで。
「そ、……その時と今では状況が違うの!」
我ながらわけのわからないことを言っていると思ったが、上手い理由が思いつかなかったので仕方がない。
凪くんの視界から逃れるため、ぐるりと身を反転して凪くんに背を向ける。
「………れって、……てくれてるって…………よね」
後ろで凪くんが何か呟いたが、聞き返さない。こんな顔、凪くんに見せられない。
互いに沈黙する。
――そして、私は凪くんに後ろから抱きしめられた。
「……あなたセンパイ。オレ、センパイに本気で恋してもらえるように頑張りますね」
耳元で囁かれた宣言に少し驚く。
気付いてたんだ、凪くん。
「というわけで!センパイ、次は何食べます?女子なんでわたあめとかですか?」
「何その偏見……んー、ポテト食べたいかな」
「わかりました!めっちゃ入れてくれそうなとこ行きましょう!」
にぱっと笑って、凪くんはさりげなく私の手を取り前へと引いていく。
決して大きくはないけれどしっかりした背中に、すごく男らしさを感じて、手が離されるまでドキドキしっぱなしだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!