幸人くんは弓道部だ。そのため、的当ての屋台をやりたいようだった。
「真ん中に当ててみて!」
弓を屋台の人から受け取った幸人くんに、ちょっと無茶ぶりをしてみる。
上手い人でも、なかなか真ん中に当てるというのは難しい。そのことはもちろん知っていた。
毎日弓を引いている幸人くんも知らないはずはないのだが――
「わかった」
――わかった!?
簡単に了承して弓を引き始めた幸人くんの後ろ姿を眺め、私はただただ驚いた。
数秒後、幸人くんが放った矢は、宣言通りど真ん中を撃ち抜いた。
「当たった」
ぼそっと呟いて幸人くんは弓を屋台の人に返した。
景品のお菓子をもらい、幸人くんが戻ってくる。
私は感動して、最初、上手く言葉が出てこなかった。
「っ……す、すごい!!すごいよ幸人くん!」
「俺もびっくりしてる」
そう言う割にあんまりびっくりしてないような顔なので、面白くて笑ってしまった。
「次、あなたやる?」
「え!?わ、私はいいよ!」
何年か前やったことあるけど、ダメダメだったんだよね……。
その時のことを思い出してぶんぶんと首を振り、ニコッと笑えば、幸人くんはあっさり引き下がった。
軽い気持ちで聞いてきただけなのか、私の内心を悟ってくれたのかはわからない。でも、こういうしつこくないところも好き。
「あなた、今“俺のこと好きだなー”って考えてた?」
「!?あ、えと……」
「俺も好きだよ」
ちゅ、と短いキスが降ってくる。
――思いっきり人目あるのに!!なんでいきなり!?あぁでも嬉しい……!
矛盾した思いをこじらせながら、幸人くんの心が読めたらいいのにな、と私は切に願っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。