「へ、平気とかじゃ……ないけど……」
誤解を生まないように言ったが、続く台詞が出てこない。
本当に私ってダメだ……。
ぎゅっと目をつぶってひたすら俯く。
隣で陽平くんが動く気配がした。
「……そっか。俺も」
優しい手つきで頭を撫でられる。
驚いて顔を上げれば、陽平くんは「ごめんね、ちょっと電話出てくる。待ってて」と言い残してどこかへ歩いていった。
ベンチに一人きりになる。念のため陽平くんがいた場所に荷物を置いておき、それから私は下を向いて顔を両手で覆った。
……俺もって何……?だったらなんでくれるなんて言ったの……。優しさ……?嬉しいけど、嬉しいけど……照れる。
「ふぅ……」
落ち着いてきたので顔を上げてみる。
すると、急にいろんな方向から視線を感じ始めた。
もしかして知り合いとか?でも、誰とも目合わないな。
「君可愛いね!一人?」
「え……」
突然降ってきた知らない声に顔から手を外して頭を上げる。
見えたのは、成人したかしてないかくらいの二人の男の人。
何……?これ。ナンパ?
「私、可愛くないですよ……?」
「いやいや可愛いって。さっきびっくりしたもん」
「それな!浴衣似合ってるし、めっちゃ可愛いよ。言われたことない?」
……彼氏には今日、言われました。なんて言ったら下手に刺激しそうだなぁ……。
愛想笑いをしつつ「どうでしたかねー……」と言葉を濁す。
気付けば、男の人が二人ともこちらに手を伸ばしてきていた。
「っ!」
動けなくて、助けを願いながら強く目をつぶった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。