第13話

好きと必要 ⑦
31
2023/04/06 13:59







メンバーそれぞれ、ソロ仕事をこなす合間をぬって、数ヶ月ぶりにグループのライブがあった。



ステージの構成は基本は専門の舞台監督がみてくれて、やりたいことへのアドバイスをくれる。
だから、リーダーの彼が率先して細かいところまでアイディアを出して、それを形にまとめていく感じ。
今回のライブは特にその傾向が強かった。
ゆくゆくは人の舞台のプロデュースもしたいって言ってたから、余計に今、色んなことに挑戦してるんだろう。
大道具、小道具、音響、照明、ほんとに色んなことに。


曲調の強い楽曲で、がんがんボルテージを上げてから、MC、バラードでしっとりさせ、またスピーディーに走り抜けていく。
緩急つけて、疾走感のあるライブは相変わらずだけど、今回は、また俺のソロがあった。


前にも、美しい演出で暗闇の中アカペラを歌わせてくれたことがあったけど、今回は更に、オケ付きとアカペラと、2重の演出があった。
出だしの低音がキツかったけど、


「これ、オレ独りでやんの?」


「やれ。
できっだろ?」


「うぅ…入りの音が低過ぎんのよー」


「何ゆってんだ、メボ張ってんだから。
他でばっか歌ってないで、こっちでこそ魅せなきゃ」


って言われて覚悟を決める。
実際、ライブでソロ歌えるのは嬉しーしね。


会場では、観てくれてるお客様の息をのむ様子が伝わって、最高に気持ち良かった。

終わったあと彼からこっそり


「トリハダたった」


ってつぶやかれて、ホントに嬉しかったなぁ。
頑張る甲斐があるよ。









「やぁ、キラキラくん!」


背高とふたりでテレビの収録に来てた時、ロビーで偶然、彼の友達から声をかけられる。

元グルの、メボやってた彼。
最近芸名変えて、きらん、とか言うようになったんだよな。
偶然だろうけど、妙に俺に似た名前なのよ。
にこにこと、感じ良い笑顔。


「収録?」


「はい」


「僕もだよ。
なんかドームコンサートのドキュメンタリーぽいやつ。
アフレコあるんだって」


「そうなんすね、やっぱ大っきいグループはすごいですねー」


「そっちはどう?
この前のライブ見に行ったけど、ソロかっこ良かったよー。
実はあれ、リーダーから曲や構成、相談受けて、僕が選曲したんだ。
出だしキツくなかった(笑)?」


ん?


「まぁ、キラキラくんなら歌えるって思ってたから心配はしてなかったけどね」


んん?


「この前もリーダーと一緒に毎日お洋服買いに行ったし、今度は映画に行くんだけど」


んんん?


「時間あったらキラキラくんも一緒に行こうよ?」


なんなの?
何のマウント?
まるで彼は自分のもの、みたいな話し方。


「いっすねー、時間が合えばぜひご一緒させてください。
入りの低音に苦労したのわかるなんてやっぱきらんさんさすがだなー。
俺もまだまだなんで、きらんさんに歌教えて欲しー」


「………」


変な緊張感が走る。


「僕がキラキラくんに教えることなんて何も無さそうだけどねー。
せいぜいリーダーの昔話ぐらいじゃない?
聞きたくない?
昔やんちゃしてた話とか、誰と親密だったとか」


かちん。


「あー、それはいらないかなー。
彼がまじめにバイトして頑張ってたの知ってるし。
それに、何があったとしても過去は過去だから」


目の前の顔が明らかにムッとした。


「過去が現在になることだってあるよね?」


「そうなってから考えますよー」


「……まぁ、ライブの構成はめちゃ喜んでくれていっぱいハグし合ったし、今度ご飯も行くし呑みも」


「キラキラ!
時間やぞ?」


背高が声かけてくれたから話が中断した。

助かったー!

俺と背高は、じゃあすいません、また、とか言ってその場を離れる。
最後に見たきらんさんの顔は無表情で、まるで能面のよう。


「あの人確か……」


「うん」


背高が俺の顔を見る。


「大丈夫か?」


「何が?」


「あ、いや……」


「何よ?
言ってよ」


「リーダー、最近あの人とえろう仲良く遊んでるみたいやから」


ぐさっ。


「俺、今、仕事忙しいんだもん、仕方ない」


「そうやな」





背高の声を聞いた途端、俺は我慢できなくなった。
全力で走ってロビーに戻る。

ロビーにはもう誰もいなくて、廊下のはしに、今まさに立ち去ろうとしてるきらんさんがいた。


「きらんさん!!」


はぁはぁと息を乱して走り寄る俺にきらんさんは驚いた表情。
俺を見上げてくる。
やったよ、俺のが背が高い。
いや、俺、何のマウント。


はぁはぁ。


「きらんさん!」


「なに?
どしたの?」


「きらんさんは、彼が苦しんだり悲しんだりするの、嫌ですよね?」


「当たり前でしょ!
親友なんだから」


「じゃあ俺は?」


「え?」


きらんさんの驚いた顔が一瞬だけど歪んだ。


「俺が苦しんだり悲しんだりするのは?」


「望まないよ、もちろん。
きみが悲しんだら彼も悲しむでしょ?」


表情にはもう何の陰も差さない。
だからこそ、俺はわかってしまった。
俺に取って代わりたいきらんさんの気持ちが。


俺は頭を下げた。


「ありがとうございます、呼び止めてすみません。
これからもよろしくお願いします」






きらんさんが苦しめたいのは俺だけ。

失敗させたいのは俺だけ。

彼の笑顔を曇らせたいわけじゃない。




でもあの難曲を選んだのが本当にきらんさんなら。

あわよくば、俺が出だしでミスったら。
彼が、失敗した俺にがっかりしたら。

自分の方がふさわしいって、わからせることができるかも、って少しの期待も無かったとは思えない。




きらんさんは俺だ。
俺だって、もし彼が俺以外の誰かを選んだら。

どんなに悲しくても、彼のそばにいたいから、彼が選んだ人ごと受け入れるしか無いんだ。
もしそれがきらんさんなら、きらんさんを。

彼がきらんさんを愛することを、受け入れる。




『キラキラ、キスしてよ』
『だめだめ、もっとしっかり抱いてて』
『もっとオマエをくれよ』
『オマエはオレんだかんな』



うっわ。
これを失うかもって考えるだけで胸がズキズキする。


いやこれ、思ってる以上に大変だぁ。


愛って。ゼロヒャクなんだな。
彼無しか、彼ありか。

もし子供が、気に入らないパートナー連れてきたら、それを受け入れる親って大変なんだなぁ。












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