第14話

『 君といつか 』141 〜
164
2019/05/21 21:28
『君といつか』

*141*

大:〇〇のオススメのコーヒーは?

大くんに聞かれて思いついたのは、ただひとつ。

〇:キリマンジャロ…かな。……こないだ美味しいって言ってもらえたの。

直接「美味しかったよ」と言われたわけではない。

けど、淳太くんが思わず口に出てしまった「ぅわっ!おいしっ!」は、私にとって最高の褒め言葉だった。

大:ほな それで!
〇:はい!

私がコーヒーを入れる作業を、嬉しそうに眺める大くん。

大:上手いなぁ〜!この仕事、楽しいんちゃう?
〇:うん!すっごく楽しいよ!
光:〇〇ちゃん お友達?
〇:あ〜// 彼氏です//
大:はい!彼氏です!
〇:もぉ〜大くん!そこは「重岡です」とか「よろしくお願いします」とかでしょぉ〜?
大:へっ?せやった?
光:ははっ!面白い彼氏だね〜
〇:すみません// こんな感じで、いつも笑わされちゃうんです!
大:変な奴で すんまへんなぁ〜(笑)


〜#142〜
大:にしても、ええカフェやなぁ〜
光:〇〇ちゃんが辞めちゃう前に来たんですか?
大:え?…ま…まぁ…そんなとこですわ。

私が他のお客様の接客最中に、こんな会話をしていたなんて知らなかった私は、

大:また来ても ええ?

帰りがけに そう言う大くんに、

〇:もちろん!でも、サプライズは無しだからね!

と、笑顔で言った。



後になって分かった。
大くんの心には、いつだって不安が隠れていたんだろうな…



カフェからの帰り道。

大:〇〇〜♡
〇:えっ?大くん?どうしたの?
大:待っとった(笑)
〇:2時間も?どこで?
大:ココで!早よ帰ろ?
〇:もぉ〜大くんったら〜(笑)

私は勘違いしていた。
夜の帰り道を心配してるんだと思ってた。
確かに それもあるのかも知れないけど…

辞める事を、話して無かったせいで、大くんを不安にさせてしまっていた。

この頃、ちゃんと話していれば…


〜#143〜

カランコロン♪

〇:いらっしゃいませ〜
大:〇〇っw
涼:どぉもっ!
〇:あれぇ〜?またアポなしぃ?しかも、涼介さんまで一緒だなんてぇww
大:涼介が連れてけってウッサくてさw
涼:お前が連れてくって言ったんだろぉ〜それにウッサいのはいつも、お前だけだからな!

カウンターに座るなり、

大:こないだのコーヒー…何て言ったっけ?キリヤマ?ちゃうな。キリマウンテン?う〜んちゃうな…
涼:キリマンジャロ。
大:せや!それやっ!涼介くん すごぉ〜い♡

と、涼介さんの腕にスリスリしてる大くんw

ふたりが来てくれたおかげで、賑やかになった店内。
それなりに大人だから、バカ騒ぎはしないけど……賑やかだw


でも、それが…
一瞬にして冷めた空気になった。


大くんがトイレに立ったのと入れ違いで、

カランコロン♪
〇:いらっしゃ………


淳太くん…


*144*
淳:よっ!今日もバイトなんだ?w

そう言いながら、嬉しそうにカウンターの一番奥の席へ座った。

〇:ぃっ いらっしゃいませ……
淳:いつもの、キリマンジャロで。
〇:は、はい…

一番悪い最悪より上の最悪の時に来るなんて…ホント最悪…

涼:・・・よぉ…お前、常連なの?
淳:え、涼介?……お、おん…まぁ…
涼:〇〇ちゃん目当てか…
淳:は?ちゃうわ!〇〇がバイトする前から来とったわ!お前こそ……〇〇目当てなんちゃうんか?
涼:は?……ケンカ売ってんのか?

ヤバいよ…
このふたりは、マジヤバいよ…

大:ただい…ま……淳太…やっぱりな…

えっ?
やっぱりって、どういう事??

大:〇〇が何か隠しとるんは知っとったんや…
〇:え、待って!隠してるなんて!
大:言えへんかったんやろ?そういう事やん…

そういう事って?
私…悪い事してたのかな…?



*145*
〇:…だから…辞めようと思ってたの。でも、次の人が決まらなくて…お店に迷惑かけられないし…
涼:淳太が悪いと思うよ。知ってて来るなんてさ。それとも まだ、〇〇ちゃんを傷つけ足りないのか?
淳:そんな事っ!
〇:もう……辞めてください。少なくても私は、赤ちゃんが元気に産まれてくるのを願ってるんです。麗華さんと淳太くんが、幸せになるのを…

そうじゃなきゃ、私が淳太くんを諦めた意味が…無くなっちゃうから。

〇:キリマンジャロ…入れますね。
淳:や、今日は帰る。〇〇 ごめんな。

その「ごめんな」は、どういう意味なの?

私は、こんな事を望んでいるのではない。

また、踏み外しそうな幸せ。
どこで間違えたんだろう??

大:〇〇は大人やなw
涼:お前がガキなんだよ。っつっても、俺も淳太に噛み付いたか…w

淳太くんが帰ると、お客様がたくさん来て忙しく、ふたりと会話する時間はほとんど無かった。


*146*

涼:そろそろ帰るね。〇〇ちゃんありがとう 美味しかったw

私は失った物ばかりではない。

こうして涼介さんとは仲良くなったし、それに…

大:〇〇が終わるまで待っとってええ?
〇:うん(笑)

大切にしてくれる私のヒーローは、彼氏になった。


帰り道。
大くんは、私と手を繋ぐと、少し微笑んだ。

〇:ごめんね?言ってなくて。
大:ごめんな。変な事 言うて。

そう言うと、主要駅で混み合ってきた車内で、私をそっと抱き寄せた。

分かってくれてるの?

私だって、大くんの事…
大好きなんだけどな…


〇:今から…ウチに来ませんか?
大:ぅへぇ??
〇:なにその声〜w
大:おんっ!おんっ!行くっ!!!

ほら、めっちゃ可愛い♡
こういうトコだよ〜ww


いつでも会える。
いつも好きだと伝えてくれる。

安心するんだ。


淳太くんとは違う。


*147*


次のバイトで、私は店長から聞いた言葉が、信じられない、信じたくはないものだった。


店:会ってはいけない人って、淳太くんだったんだね?
〇:はい…
店:でも、麗華さんと淳太くんって中学生の時からだよね?
〇:そうですよね…私の入り込む隙間なんて無いハズなんです。表向きは…
店:表?
〇:いつしか、私は裏面になってしまって………でもイイんです!私なら大丈夫ですから!それより、次の人は?
店:まだ決まらないの。
〇:そうですか…
店:早く辞めたい?
〇:……いえ…ホントは辞めたくありません。
店:でしょうね〜働いてる〇〇ちゃん見てると、心が痛むんだよね……
〇:そんな、店長が落ち込む事ないですよぉ〜私なら大丈夫ですから!w

店長は、本当に辛そうな顔をした。

私が辞めるだけで、そんな辛いだなんて…


*148*
店:実は…淳太くんに聞かれた事があるの。
〇:え、何をですか?
店:妊婦さんは、いつ頃からお腹が大きくなってくるのかって。
〇:……麗華さんの事を気遣ってるんですね…
店:私も最初はそうかと思ったんだけど…

麗華さんは7ヶ月になったらしいが、お腹が目立たないらしい。

病院へは一緒に行ったことがなく、赤ちゃんは順調だと、エコー写真を見せてもらっている様だけど…

だったらお腹が目立たないのは、可笑しいんじゃないかと…


〇:……淳太くんは…何が言いたいんですか?

そう聞く私の声は、震えていた。


店:私は「麗華さん痩せてるから」って誤魔化すしかできなかった…


もしかして…赤ちゃんがあまり育ってないとか?

もし、元気に産まれてこなかったら?
もし、産まれることもなかったら?


淳太くん…


私は知らず知らずに、悲しみに溺れるような、そんな淳太くんを想像してしまっていた。


*149*

確かめたい!!!


何を期待しているのか、私は淳太くんがお店に来るのを待った。

が…
あの日から、淳太くんは来なくなった。




〇:ねぇ?赤ちゃんって、お腹の中で死んじゃったりするのかな?
結:急にどうした?
〇:……やっぱり いいや。
結:なにぃ〜??気になるやり方しないの!てか…淳太くんと麗華さんの事?
〇:うん……私が今から言うのは、個人的な意見とか質問とかで、フィクションです。分かった?
結:??う、うん…分かった。
〇:お腹が目立たない妊婦さんがいます。赤ちゃんが元気か調べるには、どうする?
結:エコーで診る。
〇:私達が調べるには、だよ!
結:お腹を触る!蹴ったりするべ?
〇:触れなかったら?
結:エコー写真を見せてもらう!
〇:う〜ん…あのさ?エコー写真って、偽造できるかな?
結:なにもぉ〜全然 分かんない!何のこと言ってるのよ〜
〇:だから!フィクションだって!


*150*
結:だって、〇〇が言ってることは、まるで赤ちゃんがシんだか、居なかったかだよ?
〇:えっ??結奈……そんな可能性って………あるの?
結:えっ?どんな可能性?
〇:だから、居なかったって……元々 居なかったなんて事………まさかね…

私は引きつりながら笑った。

正式には、そんな事がもしあったとしたら、怖くて笑うしかない!んだけど、上手く笑えてない……だ。


淳太くん…


私の中の心配は、どんどん増していった。

赤ちゃんが居ないかもなんて…
淳太くんだったら、そんな事、考えないよね?

優しいから。

や、違うかもね。

その場合は…お人好しって事かな。
バカが付くくらいの。

でも、根拠のない話しだし、確かめようがないし…

前に麗華さんに言われた…
私には、何の力も無い。

ホント…その通りだな…

私に出来ることと言ったら、赤ちゃんが元気に産まれてきてくれるように…


ただ願うだけ…



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