『君といつか』
*VOL81*
大:結奈がおるから そうなんねん!〇〇 ひとりで来ればえかったのに…
結:え?なんて?
大:なんもないわ!行くで!
大くんは結奈と普通にしてるけど…
私は大くんとチラッと目が合うと うつむいた。
前を歩く大くんの背中を、マジマジと見てしまう。
ヒーローも…
恋…
するよね…
大:ほら居った!
大くんが指差す方を見ると…
野外の大きな舞台の袖で、片手に台本を持ち、インカムを付けて働いている…
淳太くんだ…
大:淳太な、ココでやるイベントの演出しとんねん!
結:やっぱ頭がイイ人は違うな〜デキる男って感じ!ね、〇〇!?
〇:うん…
私は…
その姿に、信じられない気持ちでいた。
会いたくても会えない人がそこにいる…
それはまるで…
大好きなアイドルを、遠くから見ているようだった。
真っ直ぐに視線を送る私だったが…
視線を感じ振り向くと…
涼介さん…
*VOL82*
やっぱり…会ってしまった。
涼:相変わらず、健気だね〜
鼻で笑いながら、皮肉っぽく言う涼介さんに、結奈が食って掛かった。
結:棚に上げて、何言ってんの!アンタだって相当な健気してんじゃんッ!!!
涼:結奈ちゃん。そんな顔してたら、年下の彼氏に嫌われちゃうよ。
結:え…
何で知ってるの?
まだ、付き合って数日。
周りに言いふらしてるワケでもないのに。
未だに私達のコトを探ってるんだ…
でも…どうやって…
私達の背中を、冷たい空気が包み込んでいった気がした。
〇:涼介さんは…何が…したいんですか?私はもう、淳太くんには会えないのに…それだけで…もう充分なんじゃ……
涼:中間淳太のどこかに、〇〇ちゃんが居なくならない限り…
大:お前アホか。そんなのムリやて…自分がいっちゃん分かってるやろ?
涼:前に進む事しか出来ないお前には理解できないだろうな。もう…後に引けない人間の気持ちは。
*VOL83*
〇:・・・ホントは…何か期待してるんじゃないですか?
涼:期待?どういう意味かな?分からないなぁ〜
ニヤつき、見下した様な演技。
もう、その手には乗らない。
私だって…
少しは大人になってるんだから。
〇:私…もう、高望みはしません。
涼:…そう?!ならイイけど…
〇:でも、辞めました。
涼:えっ?
〇:だってぇ〜私がおとなしくなっちゃったら、涼介さん?これから何して生きて行くんですか?
『いつか』…最高の結末になる為に…
誰もが幸せになる為に。
結:だね!涼介さん!これからも頑張って!
大:ほな!行きまひょかぁ〜!さいならぁ〜
結奈と大くんは、私を連れてその場から去った。
このふたりが居ると、強くなれる。
立ち向かう事が間違いじゃないと、思わせてくれるんだ。
でも…
そんな…
最高の結末なんて…
あるの……………?
不安が残ったまま、私は前を向いて歩いた。
*VOL84*
〇:ホントはね…もう期待しないでいようって…考えてたんだ。
結奈が幸せそうで、私もつられて笑顔になって…
それだけで幸せだなぁ〜って感じたから。
結:〇〇…
〇:でもさ…さっき、淳太くんを見て気付いたの。
『想い』って、やめようって考えただけじゃ…消えない。
って、分かっちゃったぁ〜(笑)
はっきり言って、今はまだ どうしたらイイのか分からないけど…
大:よっしゃっ!分かったぁーーーッ!!!
結:うっさ!!!急になにぃ?
大:これから、今日のメインや!
大くんが言うには、この後 行われるミスコンの審査員に麗華さんが登場するらしく、涼介さんは出場者のサポートの仕事があるとか。
大:奴らが動けない隙を狙って、淳太をゲットするぜっ!!!
結:てか…淳太くんは、野外ステージの仕事があるんじゃないの?
大:そんな事!調査済みに決まっとるやろ!
*VOL85*
室内大ホールでミスコンが始まると、今まで野外ステージにいた
たくさんの人が、まばらになった。
この時間はお子様向けのステージ。
芝生にレジャーシートを広げて、子供達がチョコンと座っている。
大:『エビカニクス』が合図やて。
結・〇:エビカニクス?
大:おん…俺も知らんのやけど…
って、みんな知らなかったけど…
エビとカニの変装をした人が出てきて、子供達と踊り始め…
結:分かりやすっ!
〇:ホントだね(笑)
大:行くで!!!
子供達とエビカニクスで、私達はホッコリした気持ちで、淳太くんの元へ向かおうとた。
涼:ど〜こ行〜くのっ??
そんなホッコリは束の間だった。
涼介さんの、してやったりの笑み。
大:お前、なんでおんねん!
涼:ふふっ!暇だからかなぁ〜
やられた…
情報が間違えてたのか…
それとも、漏れてたのか…
どちらにせよ、私達の計画は、浅はかなだけだった。
*VOL86*
涼:頑張りは認めるよ。だから…大好きな淳太くんに、会わせてあげる。着いてきて。
結:そんな、着いて行くワケないでしょ!
涼:…会いたいだろ?遠くから眺めるんじゃなくて…話したいだろ?
〇:…は、はい。
結:えッ!行くの?
なぜだろう…
涼介さんの表情が、いつもと違うように見える。
上手く言えないけど…
ワクワクしてる少年みたいに、思える。
それは、どちらか。
私が攻撃を受ける ワクワクか…
それとも…
私が、攻撃を交わして、反撃する事へのワクワク…期待か…
私は…後者だと感じた。
でももし、その感が間違いならば、オチオチ罠に掛かりに行くものだ。
大:ええやん。行こ!
結:えッ!大毅アホ?罠だよ罠!!!
大:アホ!だから行くんや!受けて立ったるわ!
〇:結奈は…待ってても、イイよ?
結:………ドアホーーーッ!行くに決まってるでしょ!!!
私達は、涼介さんの後を着いて行った。
*VOL87*
学校の外へ出て少しだけ歩くと、そこの駐車場から車が出てきた。
私達の前で止まった その車には…
大:おい!淳太やん!
結:ホントだ…淳太くんだ!
涼介さんは助手席のドアを開けると、私を見ずに、
涼:時間あまり無いから。1時間で帰って来いよ。
淳:14:30までな。〇〇 乗って!
〇:えっでも私…
こんな時に、どうして素直に行けないんだろう。
今までの涼介さんとは違う対応が、不安を掻き立てて、心臓の速さと連動したかの様に、足がすくんでいた。
結:〇〇!ひるんでる場合じゃないよッ!!!
〇:えっ!
結奈の一言で、我に帰った。
そうだ…行かなきゃ!
私だけじゃない。
皆んなの為にも。
私を見つめる淳太くんにドキドキしながら、助手席へ乗り込んだ。
ドアを閉める涼介さんは「いってらっしゃい」と言って、私を見て、照れた様に微笑んだ。
*VOL88*
淳:久しぶりやな。
〇:う、うん//
淳太くんは、チラッとこっちを見て 照れた。
〇:夢みたい(笑)
淳:ふふっ!現実やで(笑)
〇:みんなに感謝しなきゃ!
淳:……ごめんな…
〇:ううん!謝らないで。私なら大丈夫だから…
涙を堪えるのに必死だった。
この時間が、ずっと続いて欲しいのに…
程なく車を止めた淳太くんは、「チョット歩こう!」と、私を車から誘い出した。
そこは、大きな大きな森林公園で、
この時期は、銀杏並木が鮮やかに色付いていた。
淳:公園デートしたの覚えてる?
〇:近所の?あれ、散歩…
淳:デートやろ〜手繋いで歩いたやん!
〇:…手…繋いでたっけ?
淡いその記憶をたどっていると…
さりげなく右手が繋がれ…
びっくりした私は、その顔で淳太くんを見た。
繋がれた手のひらから、好きが伝わってしまいそうで、私の体温は一気に上がった…
*VOL89*
淳:ダメやった?
〇:う、ううん// そ、じゃなくて//
淳:綺麗やで!歩こ!
一瞬、私の事かと思ったけど、淳太くんが指す指の先には、鮮やかに遠くまで列をなす、銀杏並木があった。
手を繋いで歩くなんて、ドキドキはしてるけど…
この場の雰囲気のせいかな?
それとも、変わらない淳太くんのせいかな?
私の心はとても、穏やかさに包まれていた。
淳:学校どうや?
〇:親戚のおじさんみたい(笑)
淳:おじさんて失礼やなぁ〜2コしか違わんやん(笑)
〇:でも淳太くん、大人だね!屋外ステージで仕事してるのとか、車も運転デキるし!私なんて…まだ高校生だし…何にもできない…
ホント…私には何の力も無い。
淳:や…〇〇だって…大人っぽくなって…
〇:ぽくって…違うじゃん(笑)
冗談のように言うと、淳太くんは繋いだ手を引っ張って木陰へと私を隠した。
*VOL90*
淳:それ以上…キレイにならんといて?
〇:え?や、今日は…お化粧してて…
淳:誰かに…奪われてしまいそうで…怖い…
〇:淳太くん…
そんな辛そうな顔…しないで…
〇:淳太くんに会えるから…だから、キレイにしてきたの。少しでも可愛いって思われたくて。だから…嬉しい…
堪えていた涙が溢れた。
〇:私…諦めようと思ってた…結奈に彼氏が出来てね。嬉しそうに楽しそうに最高の笑顔を見せてくれて、幸せなんだなぁ〜って思った。そんな結奈を見てたら、私も幸せだなぁ〜って思ったの。こんなに幸せなら、もうそれで充分なんじゃないかな?って…高望みしちゃダメな気がして…でも、ダメだった。今日、遠くから見たら…やっぱり好きで…そしたら、欲が出てきちゃった。私も普通に、幸せな道を歩みたい。好きになって、告白して、お付き合いする。そんな普通の恋愛が…
想いがポロポロと止まらなくて…
喋りすぎた…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。