第8話

『 君といつか 』81 〜
168
2019/05/20 09:49
『君といつか』

*VOL81*
大:結奈がおるから そうなんねん!〇〇 ひとりで来ればえかったのに…
結:え?なんて?
大:なんもないわ!行くで!

大くんは結奈と普通にしてるけど…
私は大くんとチラッと目が合うと うつむいた。

前を歩く大くんの背中を、マジマジと見てしまう。


ヒーローも…


恋…


するよね…


大:ほら居った!

大くんが指差す方を見ると…

野外の大きな舞台の袖で、片手に台本を持ち、インカムを付けて働いている…



淳太くんだ…



大:淳太な、ココでやるイベントの演出しとんねん!
結:やっぱ頭がイイ人は違うな〜デキる男って感じ!ね、〇〇!?
〇:うん…


私は…
その姿に、信じられない気持ちでいた。

会いたくても会えない人がそこにいる…

それはまるで…
大好きなアイドルを、遠くから見ているようだった。

真っ直ぐに視線を送る私だったが…

視線を感じ振り向くと…

涼介さん…


*VOL82*
やっぱり…会ってしまった。

涼:相変わらず、健気だね〜

鼻で笑いながら、皮肉っぽく言う涼介さんに、結奈が食って掛かった。

結:棚に上げて、何言ってんの!アンタだって相当な健気してんじゃんッ!!!
涼:結奈ちゃん。そんな顔してたら、年下の彼氏に嫌われちゃうよ。
結:え…

何で知ってるの?
まだ、付き合って数日。
周りに言いふらしてるワケでもないのに。

未だに私達のコトを探ってるんだ…

でも…どうやって…

私達の背中を、冷たい空気が包み込んでいった気がした。

〇:涼介さんは…何が…したいんですか?私はもう、淳太くんには会えないのに…それだけで…もう充分なんじゃ……
涼:中間淳太のどこかに、〇〇ちゃんが居なくならない限り…
大:お前アホか。そんなのムリやて…自分がいっちゃん分かってるやろ?
涼:前に進む事しか出来ないお前には理解できないだろうな。もう…後に引けない人間の気持ちは。


*VOL83*
〇:・・・ホントは…何か期待してるんじゃないですか?
涼:期待?どういう意味かな?分からないなぁ〜

ニヤつき、見下した様な演技。
もう、その手には乗らない。

私だって…
少しは大人になってるんだから。

〇:私…もう、高望みはしません。
涼:…そう?!ならイイけど…
〇:でも、辞めました。
涼:えっ?
〇:だってぇ〜私がおとなしくなっちゃったら、涼介さん?これから何して生きて行くんですか?

『いつか』…最高の結末になる為に…
誰もが幸せになる為に。

結:だね!涼介さん!これからも頑張って!
大:ほな!行きまひょかぁ〜!さいならぁ〜

結奈と大くんは、私を連れてその場から去った。

このふたりが居ると、強くなれる。
立ち向かう事が間違いじゃないと、思わせてくれるんだ。


でも…
そんな…
最高の結末なんて…



あるの……………?



不安が残ったまま、私は前を向いて歩いた。



*VOL84*
〇:ホントはね…もう期待しないでいようって…考えてたんだ。
結奈が幸せそうで、私もつられて笑顔になって…
それだけで幸せだなぁ〜って感じたから。
結:〇〇…
〇:でもさ…さっき、淳太くんを見て気付いたの。
『想い』って、やめようって考えただけじゃ…消えない。
って、分かっちゃったぁ〜(笑)

はっきり言って、今はまだ どうしたらイイのか分からないけど…

大:よっしゃっ!分かったぁーーーッ!!!
結:うっさ!!!急になにぃ?
大:これから、今日のメインや!

大くんが言うには、この後 行われるミスコンの審査員に麗華さんが登場するらしく、涼介さんは出場者のサポートの仕事があるとか。

大:奴らが動けない隙を狙って、淳太をゲットするぜっ!!!
結:てか…淳太くんは、野外ステージの仕事があるんじゃないの?
大:そんな事!調査済みに決まっとるやろ!


*VOL85*
室内大ホールでミスコンが始まると、今まで野外ステージにいた
たくさんの人が、まばらになった。

この時間はお子様向けのステージ。
芝生にレジャーシートを広げて、子供達がチョコンと座っている。

大:『エビカニクス』が合図やて。
結・〇:エビカニクス?
大:おん…俺も知らんのやけど…

って、みんな知らなかったけど…
エビとカニの変装をした人が出てきて、子供達と踊り始め…

結:分かりやすっ!
〇:ホントだね(笑)
大:行くで!!!

子供達とエビカニクスで、私達はホッコリした気持ちで、淳太くんの元へ向かおうとた。

涼:ど〜こ行〜くのっ??

そんなホッコリは束の間だった。
涼介さんの、してやったりの笑み。

大:お前、なんでおんねん!
涼:ふふっ!暇だからかなぁ〜

やられた…
情報が間違えてたのか…
それとも、漏れてたのか…

どちらにせよ、私達の計画は、浅はかなだけだった。


*VOL86*
涼:頑張りは認めるよ。だから…大好きな淳太くんに、会わせてあげる。着いてきて。
結:そんな、着いて行くワケないでしょ!
涼:…会いたいだろ?遠くから眺めるんじゃなくて…話したいだろ?
〇:…は、はい。
結:えッ!行くの?

なぜだろう…
涼介さんの表情が、いつもと違うように見える。
上手く言えないけど…
ワクワクしてる少年みたいに、思える。

それは、どちらか。
私が攻撃を受ける ワクワクか…
それとも…
私が、攻撃を交わして、反撃する事へのワクワク…期待か…

私は…後者だと感じた。

でももし、その感が間違いならば、オチオチ罠に掛かりに行くものだ。

大:ええやん。行こ!
結:えッ!大毅アホ?罠だよ罠!!!
大:アホ!だから行くんや!受けて立ったるわ!
〇:結奈は…待ってても、イイよ?
結:………ドアホーーーッ!行くに決まってるでしょ!!!

私達は、涼介さんの後を着いて行った。


*VOL87*
学校の外へ出て少しだけ歩くと、そこの駐車場から車が出てきた。

私達の前で止まった その車には…

大:おい!淳太やん!
結:ホントだ…淳太くんだ!

涼介さんは助手席のドアを開けると、私を見ずに、

涼:時間あまり無いから。1時間で帰って来いよ。
淳:14:30までな。〇〇 乗って!
〇:えっでも私…

こんな時に、どうして素直に行けないんだろう。
今までの涼介さんとは違う対応が、不安を掻き立てて、心臓の速さと連動したかの様に、足がすくんでいた。

結:〇〇!ひるんでる場合じゃないよッ!!!
〇:えっ!

結奈の一言で、我に帰った。
そうだ…行かなきゃ!

私だけじゃない。
皆んなの為にも。

私を見つめる淳太くんにドキドキしながら、助手席へ乗り込んだ。

ドアを閉める涼介さんは「いってらっしゃい」と言って、私を見て、照れた様に微笑んだ。


*VOL88*
淳:久しぶりやな。
〇:う、うん//

淳太くんは、チラッとこっちを見て 照れた。

〇:夢みたい(笑)
淳:ふふっ!現実やで(笑)
〇:みんなに感謝しなきゃ!
淳:……ごめんな…
〇:ううん!謝らないで。私なら大丈夫だから…

涙を堪えるのに必死だった。

この時間が、ずっと続いて欲しいのに…


程なく車を止めた淳太くんは、「チョット歩こう!」と、私を車から誘い出した。

そこは、大きな大きな森林公園で、
この時期は、銀杏並木が鮮やかに色付いていた。

淳:公園デートしたの覚えてる?
〇:近所の?あれ、散歩…
淳:デートやろ〜手繋いで歩いたやん!
〇:…手…繋いでたっけ?

淡いその記憶をたどっていると…
さりげなく右手が繋がれ…

びっくりした私は、その顔で淳太くんを見た。

繋がれた手のひらから、好きが伝わってしまいそうで、私の体温は一気に上がった…


*VOL89*
淳:ダメやった?
〇:う、ううん// そ、じゃなくて//
淳:綺麗やで!歩こ!

一瞬、私の事かと思ったけど、淳太くんが指す指の先には、鮮やかに遠くまで列をなす、銀杏並木があった。

手を繋いで歩くなんて、ドキドキはしてるけど…
この場の雰囲気のせいかな?
それとも、変わらない淳太くんのせいかな?
私の心はとても、穏やかさに包まれていた。


淳:学校どうや?
〇:親戚のおじさんみたい(笑)
淳:おじさんて失礼やなぁ〜2コしか違わんやん(笑)
〇:でも淳太くん、大人だね!屋外ステージで仕事してるのとか、車も運転デキるし!私なんて…まだ高校生だし…何にもできない…

ホント…私には何の力も無い。

淳:や…〇〇だって…大人っぽくなって…
〇:ぽくって…違うじゃん(笑)

冗談のように言うと、淳太くんは繋いだ手を引っ張って木陰へと私を隠した。


*VOL90*
淳:それ以上…キレイにならんといて?
〇:え?や、今日は…お化粧してて…
淳:誰かに…奪われてしまいそうで…怖い…
〇:淳太くん…

そんな辛そうな顔…しないで…

〇:淳太くんに会えるから…だから、キレイにしてきたの。少しでも可愛いって思われたくて。だから…嬉しい…

堪えていた涙が溢れた。

〇:私…諦めようと思ってた…結奈に彼氏が出来てね。嬉しそうに楽しそうに最高の笑顔を見せてくれて、幸せなんだなぁ〜って思った。そんな結奈を見てたら、私も幸せだなぁ〜って思ったの。こんなに幸せなら、もうそれで充分なんじゃないかな?って…高望みしちゃダメな気がして…でも、ダメだった。今日、遠くから見たら…やっぱり好きで…そしたら、欲が出てきちゃった。私も普通に、幸せな道を歩みたい。好きになって、告白して、お付き合いする。そんな普通の恋愛が…

想いがポロポロと止まらなくて…


喋りすぎた…


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