第8話

大ピンチ!
286
2021/01/24 06:23





人力車に乗った私たちは、心地良い揺れの中で浅草の町を散策していた。

髪を撫でる爽やかな風。

いつもより高い目線でゆったりと流れていく景色。

その全てを、私たちは堪能できずにいた。





風間 蓮
風間 蓮
(座席、意外と狭くね!?)
白坂 澪
白坂 澪
(私もそう思う!!)




彼の心に同調する。

いや、私たちが知らなかっただけで、人力車とはそういう乗り物なのだ。

だけど! それでも! 近いと思う!!

もはや観光どころではなかった。

ピッタリとくっついた肩に、つい意識が向いてしまう。

そうなると当然、彼が今思っていることも聞こえてきてしまうわけでーー



風間 蓮
風間 蓮
(……さっき掴んだ白坂さんの手、小さくて可愛かったなぁ)
白坂 澪
白坂 澪



突然、手を引いた時の感想が流れてきて、心臓がドキッと跳ねる。


心の声を勝手に聞くなんていけないことだと分かっているのに、自分の力ではどうすることもできない。


風間 蓮
風間 蓮
(そういえば、抱きしめられたのも俺が初めてだったって言ってた)


わわっ、そんなことまで思い出さなくていいよ〜!

熱くなった顔を両手で覆う。

余計なことまでカミングアウトしてしまった自分が憎い。



風間 蓮
風間 蓮
(俺のこと、嫌いじゃないって言ってくれたけど……。それなら……どう思ってる?)



核心をつくような一言に、ドキッとする。

言葉にして聞かれたわけじゃないのに、思わず彼の方を向いてしまった。

真っ直ぐな、それでいてどこか切ない瞳と視線が絡み合う。



白坂 澪
白坂 澪
(どう思ってる? って……)



私はーー



俥夫(しゃふ)さん
俥夫(しゃふ)さん
はーい、到着ー



人力車を引いてくれていた俥夫しゃふさんが足を止める。

いつの間にか、雷門へと戻ってきていたらしい。

観光客で賑わう仲見世通りを歩きながら、私は彼に問い掛ける。
白坂 澪
白坂 澪
こ、これからどうしようか?


今頃明里ちゃんたちは、浅草神社の方へ向かっているはずだ。

合流するなら浅草寺での参拝を諦め、みんなを追いかけた方がいい。

でもーー



白坂 澪
白坂 澪
あっ



さっきから我慢していたお腹が、「ぐぅ〜」と鳴る。

その音はしっかりと風間くんにも聞こえてしまったようで、おかしそうにプッと噴き出されてしまった。




風間 蓮
風間 蓮
小腹空いたよな
白坂 澪
白坂 澪
うぅ、ごめん……



恥ずかしくて消えたい……。

真っ赤な顔で俯く私の横で、風間くんが意を決したように「よし!」と言った。


風間 蓮
風間 蓮
まずは腹ごしらえしよう
白坂 澪
白坂 澪
えっ!? でも……
風間 蓮
風間 蓮
浅草の味、堪能したくない?



笑顔で「はい」と渡されたのは、ほかほかのどら焼きだった。

どうやら、ちょうど目の前にあったお店で購入してくれたらしい。


白坂 澪
白坂 澪
ありがとう……。待って、今お金を……
風間 蓮
風間 蓮
そんなの気にしなくていいよ。わ、このどら焼きめっちゃうまい! 白坂さんも食べてみて!
白坂 澪
白坂 澪
う、うん



彼があまりにも美味しそうな顔で目を丸くしたので、私も一口ぱくっと食べてみた。

ふわふわの生地と甘いあんこの味が、口いっぱいに広がっていく。


白坂 澪
白坂 澪
おいしい!
風間 蓮
風間 蓮
だろ? って、俺が作ったわけじゃないけど
白坂 澪
白坂 澪
ふふっ
風間 蓮
風間 蓮
候補に挙げてた店にも行ってみよう
白坂 澪
白坂 澪
うん!




それから私たちは、浅草の名物を食べ歩いた。

風間くんは常に人通りの多い方を歩いてくれて、私が観光客とぶつからないよう、守ってくれた。

そのさりげない優しさが嬉しくて、胸がじんわりと温かくなる。


白坂 澪
白坂 澪
(私、風間くんのことをどう思ってるんだろう……)



浅草寺で参拝する彼の横顔をちらりと見つめる。

初めは怖い人だと思っていた。

私を『可愛い』と思ってくれていることを知って戸惑ったけど、なんだか嬉しくて……。

見た目とは反対に、その心はとても純粋で優しく、誰よりも真っ直ぐだった。

そんな風間くんを、私はいつの間にかーー




白坂 澪
白坂 澪
(好きになってたんだ)



彼の心の声を聞いてしまったことが、きっかけだったのかもしれない。

だけど、それだけじゃない。

風間くんと接してみて、彼が素敵な人だって分かったから。


風間 蓮
風間 蓮
よし、じゃあ次に行こうか
白坂 澪
白坂 澪
待って、風間くん! 私ーー



勇気を出して彼に想いを告げようとした、その時。



ガラの悪い他校生
ガラの悪い他校生
あれぇ〜? もしかして風間くんじゃないの?




ガラの悪い5人グループの他校生に、私たちは囲まれてしまった。




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