第5話

初めて見る笑顔
325
2021/01/24 06:24
白坂 澪
白坂 澪
(どうしよう、私……。今、風間くんと帰ってる……!)



彼のお願いに「いいよ」と答えたものの、心臓は忙しなく動いていた。

男の子と下校するなんて、小学生以来かも。

それでも、こんなに緊張しなかった。

身体の左半分が、なんだか落ち着かない。


風間 蓮
風間 蓮
あの……さ
白坂 澪
白坂 澪
は、はい!?
風間 蓮
風間 蓮
さっきは……その……ありがとう

(バカ! もっと具体的に言えよ!)



足元を見ながら私にお礼を言った彼は、言葉足らずな自分を心の中で叱っていた。

“さっき”と聞いて、思い当たることは一つしかない。

白坂 澪
白坂 澪
もしかして……風間くんをグループに誘ったこと?



こくん、と彼が頷く。



風間 蓮
風間 蓮
白坂さんが誘ってくれて……嬉しかった。
ありがとう
白坂 澪
白坂 澪



ふわっと上がる彼の口角に、心臓が一際大きく跳ねた。



白坂 澪
白坂 澪
(風間くんって、こんなに優しい顔で笑うんだ……)



弾けたそばからドキドキと走り出す心音。

胸の奥がきゅうっと甘く締めつけられて、微笑む彼から目が離せない。

夕陽に当たった金色の髪は、いつもとは違う温かな輝きを放っていて……。

彼の持つ全てに、吸い込まれてしまいそう。




風間 蓮
風間 蓮
白坂さん? どうかした?
白坂 澪
白坂 澪
う、ううん! えっと、綺麗な髪だなって……


見惚れていたなんて言えなくて、でも誤魔化すこともできなくて、私は思っていたことの半分だけを素直に伝えた。

風間くんは「ああ」と言いながら、毛先を指で摘みあげる。


風間 蓮
風間 蓮
これ、地毛なんだ
白坂 澪
白坂 澪
えっ!? そうなの!?
風間 蓮
風間 蓮
うん


てっきり染めているものだと思っていた。

クラスのみんなも……いや、全校生徒がこの事実を知らないんじゃ……!?


風間 蓮
風間 蓮
イギリスと日本のハーフなんだ。学校にも証明書出してる
白坂 澪
白坂 澪
し、知らなかったよ……
風間 蓮
風間 蓮
別に話すようなことでもないし。……まぁ、この髪のおかげで不良だと勘違いされることも多いけど
白坂 澪
白坂 澪
えっ!?
風間 蓮
風間 蓮
なに、その“不良じゃないの!?”  みたいな顔
白坂 澪
白坂 澪
ご、ごめん……。だって……



心外だと言わんばかりの表情を向けられ、しどろもどろになってしまう。



白坂 澪
白坂 澪
噂では空手部の先輩五人を倒したって……
風間 蓮
風間 蓮
それは、俺が腕っぷし強いからってしつこく勧誘してくる先輩たちに“俺たちを全員倒せば諦める”って言われたからやったの
白坂 澪
白坂 澪
じゃ、じゃあ、夜の町を金属バット持って徘徊してるって噂は!?
風間 蓮
風間 蓮
金属バット……? あぁ、野球の帰りかな?
白坂 澪
白坂 澪
野球……?
風間 蓮
風間 蓮
小学校の頃に入ってた野球チームの監督が、たまに声掛けてくるんだ。暇なら子どもたちに教えてやってくれって
白坂 澪
白坂 澪
……


あれ? おかしいな。聞いていた話と全然違う。

嘘をついている気配もないし、これじゃあ素行が悪いどころか、スポーツ万能で面倒見のいい青年だ。

もちろん、それはとても良いことなんだけど……。


白坂 澪
白坂 澪
じゃあ、ここの傷は……?



私は、人差し指を自分の唇の脇に当てた。

彼の綺麗な顔には、ひとつだけ怪我の痕がある。

それは昨日からのもので、明里ちゃんも「ケンカして遅刻したんじゃないか」って言ってた。

私の質問に、初めて彼が言い淀む。




プリ小説オーディオドラマ