第7話

もう逃げない
307
2021/01/24 06:23
それから私は、風間くんの顔をまともに見れなくなってしまった。


彼の存在を近くに感じるだけで、恥ずかしくて俯いてしまうのだ。


グループで話し合う際も、友達を介してじゃないと言葉が詰まってしまう。


こんな私を風間くんがいい気持ちで見ているとは到底思えなくて、彼の心を読まないよう必死に気を逸らし続けた。


それでもやっぱり気になって、彼の後ろ姿を目で追っては、胸が切なく締め付けられていく。




白坂 澪
白坂 澪
(風間くんのように強くなりたいって思ったのに……)





結局私は、逃げてばかりだ。




***





そして、校外学習当日。



望月 明里
望月 明里
……澪、大丈夫? 顔が真っ青だよ



隣にいた明里ちゃんが、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


白坂 澪
白坂 澪
ごめん……。ちょっと電車酔いしちゃったみたいで



苦笑しながら答える。

駅や電車の中は、たくさんの人と音で溢れている。

加えて私は心の声も読めてしまうので、脳にたくさんの情報が一気に流れ込み、気分が悪くなってしまうのだ。

音楽を聴いていれば大丈夫なんだけど、今日は明里ちゃんたちと来たから、イヤホンはつけなかった。



白坂 澪
白坂 澪
迷惑かけてごめんね……。みんなは先に行って


他の班はもう自由行動を始めている。

私のせいで回る時間が少なくなるのは申し訳ない。

心苦さからそう言うと、みんなは困った様子で顔を見合わせた。

その中で、風間くんが小さく手をあげる。




風間 蓮
風間 蓮
俺が白坂さんに付き添う
白坂 澪
白坂 澪
えっ!? でも、風間くんはリーダーだし……
望月 明里
望月 明里
こっちは副リーダーの私がいるから大丈夫よ! それに、風間くんなら変な輩が絡んできても澪を守れそう



そんな用心棒感覚で頼んでいいものなのか……。

いや、それより今は風間くんと二人きりになるのは、ちょっと……!

色んな思考が混ざってあわあわとする私に、明里ちゃんがそっと耳打ちをしてくる。


望月 明里
望月 明里
なんかあったんでしょ。この機会に仲直りしちゃいなさい
白坂 澪
白坂 澪
……



そう言って明里ちゃんはウインクすると、みんなを連れて人力車の方へと向かった。


白坂 澪
白坂 澪
(明里ちゃん、気づいてたんだ……)



背中を押されたような気がして、胸が熱くなる。

小さくなるみんなの背中を黙って見つめていると、風間くんの手が肩にトンと触れた。


風間 蓮
風間 蓮
大丈夫?
白坂 澪
白坂 澪
あ、うん。ごめんね、付き合わせちゃって……
風間 蓮
風間 蓮
気にしないで。それよりも、どこか座るところをーー
白坂 澪
白坂 澪
風間くん!



私に声を遮られ、風間くんは驚いた顔で振り返る。

明里ちゃんがくれたチャンスを、無駄にしちゃいけない。

もう逃げないと固く誓って、私は勢いよく頭を下げた。



白坂 澪
白坂 澪
ごめんなさい!
風間 蓮
風間 蓮
……え?
白坂 澪
白坂 澪
私……咄嗟といえど、男の子に抱きしめられたのは初めてで
風間 蓮
風間 蓮
……
白坂 澪
白坂 澪
あれから、どう接したらいいか分からなくて……。ずっと、風間くんのこと避けてた。本当にごめんね



おずおずと見上げる私の目に、ホッと息を吐く彼の柔らかな表情が飛び込んでくる。



風間 蓮
風間 蓮
よかった……。俺、白坂さんに嫌われちゃったのかと思った
白坂 澪
白坂 澪
き、嫌いになんてならないよ! むしろーー



あれ? むしろなんだっていうんだろう。

途中で言葉を切った私に、風間くんが小首を傾げる。

私は慌てて「なんでもない」と付け足した。





***





風間 蓮
風間 蓮
顔色、少しよくなったみたいだね
白坂 澪
白坂 澪
うん。お陰様で



15分程ベンチで休ませてもらったら、気分はすっかり元通りになった。



白坂 澪
白坂 澪
ここで待っていれば、みんなと合流できるかな
風間 蓮
風間 蓮
……いや、俺たちも人力車に乗ろう
白坂 澪
白坂 澪
え? どうして?



それじゃあ、すれ違いになってしまう。

風間くんは困惑する私の手を取り、ニカっと笑った。



風間 蓮
風間 蓮
だって白坂さん、“人力車に乗りたい”って言ってたじゃん
白坂 澪
白坂 澪
……っ



私の希望を叶えるためだと知って、胸がきゅんと高鳴る。

彼に手を引かれ、走り出す。

嬉しそうに走る風間くんの横顔が、ときめく私の目を捕らえて離さなかった。






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