班員が決定した私たちは、向かい合わせた机に地図を置き、自由行動で回る場所を話し合うことにした。
明里ちゃんに尋ねられ、少し考える。
ははは……と、苦笑いを浮かべる。
私の求めているものとはちょっと違うけど、明里ちゃんらしい発想だ。
全員で「うーん」と首を捻る。
意見が出ることはいいことだけど、あれもこれもと欲張りすぎては、ゆっくり観光する時間がなくなってしまう。
みんなの視線が私の向かいに座る風間くんに集まる。
明里ちゃん、私が風間くんのことを好きだって勘違いしているからかな。
元は優しい子なのに、彼への当たりが心なしか強い気がして、少しハラハラしてしまう。
風間くんが地図の上に人差し指をトンと置く。
ポカンとした顔で見つめる私たちに、風間くんが眉をひそめる。
明里ちゃんが感心したように言った。
興奮気味に褒める明里ちゃんに、困惑する風間くん。
だけど、グループのみんなが彼女と同じことを思っていた。
それぞれの意見に寄り添い、アレルギーに関しても配慮してくれたところに、彼の優しさを感じる。
そんな心の不安が聞こえた私は、向けられた戸惑いの目に満面の笑みで頷いた。
こんなにも頼りになるんだもん。
リーダーは風間くんしかいないよ。
頑張って、風間くん。
照れくさそうに首の後ろを掻く彼に、みんなが期待の拍手を送った。
***
夕焼けに染まる、帰り道。
声を掛けられ振り向くと、学校の方から風間くんが走ってくるのが見えた。
あんなに急いでどうしたんだろう?
立ち止まり待っていると、息を切らした彼が私の前へとやってきた。
息を整えながら、何かを言おうとしている彼の様子をじっと見つめる。
夕陽のせいかな。
それとも、ここまで走ってきてくれたから?
普段は雪のように白く滑らかな彼の肌が、今はほんのりと赤く染まっているように見える。
なんだろう。
勝手に拾ってしまう彼の心情は自分を鼓舞する言葉ばかりで、何を伝えようとしているのか分からない。
風間くんが、意を決したように私を見つめる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。