第3話

それはいつも。
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2019/12/26 06:53
数人の足音。鞄についた鈴の音。甲高い、女子生徒の笑い声。
「うるさ……」

ぼそりと呟いた一言はかきけされる。

教室のドアを開ける。
数人が私の方を振り向いたが、またすぐに話に戻る。
前から二番目の自分の席に鞄を置き、エナメルバッグをロッカーにしまいに行くこの数秒の間。

(あ……筆箱、取られた……)

鞄の中に入れておいた布製の紺色に白い星模様のついた筆箱が消えている。落ち着いて教室を見回すと教卓の上でチョークの粉まみれになっている筆箱があった。提出物を先に全て出してしまってから筆箱を取り、ゴミ箱の上で粉を払い、念のため持ってきていたウェットティッシュで表面を綺麗に拭いた。

筆箱を机の中に戻し、本でも読もうと机に手を突っ込んだときだった。
右斜め後ろからかごをあさるようなガサガサという音。また日記を読まれるのだとすぐにわかった。
(今日も日記読まれるのか……うん、大丈夫。華澄が来るまでの我慢……)

「ねぇねぇ~見て見て!!へぇ~コイツってこんなこと思ってんだ、コイツの日記~ちょーキモいんですけど!ウケる~!!」

みんなに私の日記を見せて回るのは山吹瑠美。自分より下の人間や気にくわない人間、自分の言うことを聞かない人間に対して全くの容赦がない。私の日記をどんどん回し読みしていく。この瑠美の的になってしまったのは私と華澄、そしてクラスメイトの女子の計、三名。まだ直接的な暴力はないが、陰湿ないじめにあっていると言っても過言ではない。

人のことはバイ菌扱い。私が触ったものは全て「やだ、何これ汚なー!」と言ってクラスメイトに投げつける。クラスメイトも投げられたものを見て「そんな汚いものこっちになげてくるんじゃねーよ!」と笑いながら菌扱いをする。
しかし、幸いにも私たち三名はぼっちというわけではない。私と華澄は友達、クラスメイトの女子も、うわべだけの友達ならいる。無論、私にだって柏木未来という、うわべだけの友達はいる。

「うちさ~瑠美と一緒にいること多いけどさ、ほんとはアイツのことだいっきらいなんだいねー女王様気取りで命令してくるしさ、嫌いって言ってたヤツと仲良くしてうちのことずっとほおっておくんだよ?!まじで意味わかんない!
ほんとはさ、ずっと亜弥と友達になりたかったんだよ?これから一緒に仲良くしよ!!」

でも、これも嘘。未来が私に近づいてきたのは色々なことを聞いてその情報を全て瑠美に話すため。始めから嘘だった。それなのに未来は私が気付いていないとでも思っているんだろう。普通に話しかけてくる。

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