「行って来ます……」
結局あの日は泣きつかれてすぐに寝てしまった。朝になってやっと現実をうけいれられたような気がして少しホッとして、また出てきそうになった涙をぐっとこらえた。いつも一緒に歩いているせいか華澄がいない右側はなんだか冷たくて寒い。華澄とお揃いで買ったテディベアのストラップをぎゅっと握りしめた。ふとして空を見上げると真っ白く、冷たいものが降ってきた。
「あ……雪だ…………冷たい……そういえば華澄とはじめて会ったのもこんな風に雪が降ってきた頃だったけな……あれっ?なんでだろ……」
頬を生温かい涙が伝っていった。悲しいはずではないのに。涙は学校に着くまでずっと私の目から流れ続けていた。
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教室に入ると瑠美がいきなり大きな声を出した。
「あーッ!華澄ちゃん来たー!!いつも来ないから心配したんだよー!」
「華澄」という名前が聞こえ、心臓がドクンとなった。ゆっくりと、後ろを振り向く。ドクンドクンと心臓がうるさい。しかし、私の目に見えたのは華澄ではなく、未来と数名の取り巻きたちだった。
「調子こいてんじゃねーよ、ブス」
水が流れ出る音、バケツがガランと落ちる音が聞こえた。水をかけられた。十二月のこの寒い時期に。バケツには「トイレ用」と黒の油性ペンではっきりとかかれているのが目にはいった。はっとして鞄につけていたテディベアを確認した。華澄とお揃いの大事な宝物。私の腕で隠されていたため、バケツの水で濡れるのは防ぐことができた。
「……あ、よかった……」
一安心しているとつかの間、瑠美は私の手の中からテディベアを奪い取った。
「何これダッサ!高ニにもなってこんなガキ臭いの着けてんの~?こんなもの亜弥には必要ないよね~」
「あっ!やめてっッ!!」
テディベアがベランダに向かって投げ出された。慌ててベランダへ向かうともうテディベアは三階下の積もった雪の中へと消えていった。真っ白な色のテディベアは雪の中へ消えてしまってもう見えない。チャイムが鳴り、みんなは席へ戻っていった。
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授業も全て終わったという頃、私は教室の間下にある雪をやたらめったらに掘り返していた。もう、何時間ほど探しただろう。手は真っ赤になって息は白く、汗をびっしょりとかいていた。いくら探しても見つからない宝物。
「宝物まで私から離れていっちゃうの?」
また、声を殺して泣いた。時刻は夕方の七時半をまわっていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!