あなた…………
頼む、起きてくれよ…………
あなた………………!
誰かがわたしの名前を呼んでいる。
聞いたことあるようで聞いたことの無い声。
違う。
ピーピーピーピー
目を覚ます。
どこ、ここ。
また違うところに転生した?
もしかして、戻ってきた?
私は死んでなかったの?
ギュッ
この人、スーツ着てる?大人?
でもわたしの名前を呼んでたし、わたしの知り合い……?いやでも、こんな人知らんし。
何、を言ってるの……?
今までずっと音沙汰がなく、
居場所も分からなかった兄が
今目の前にいる?
ふざけるな。
あんたのせいで、
あんたがいるせいで、
わたしは、あいつらに傷つけられた。
あんたがいなければ
わたしは愛されるはずだったのに……!
6年前、両親が離婚し
母にはわたしを、父には兄を
裁判で決めた。
当時のわたしが12歳。兄が17歳。
この頃からの兄は頭が良くてかっこよくて誰にでも好かれる人だった。
だから両親も兄しか見てなかった。
どっちが兄といるか、それしか考えてなかった。
兄も、わたしを見ようとすらしなかった。
今までわたしが傷ついた意味はなんやったん?
今までずっとひとりぼっちやった。
わたしをひとりぼっちにさせたのは、
あなたもその一人。
なのに心配とか、ふざけんといてよ……
昔、兄が兄の友達に言った言葉は今でも忘れられない。
わたしが今17歳ということは兄が22歳。
兄の職業は医者。
昔、母が自慢げに話していたことを覚えている。
それに比べ、あんたは何も出来ない。
ただの社会のゴミだって、言っていた。
皮肉を込めた笑顔で兄を見つめ返す。
ヨルの顔色が明るくなる。
多分一生。
それは、あんたたちの言いなりなわたしを知っているから、
弱くてちっぽけで、からっぽなわたしを知っているからでしょ?
ヨルは図々しくて、どこか、、
いつかのわたしに似ている。
は、ちょっと待って、何でそうなるの?
話が跳躍しすぎてない?
ドンッと兄の胸を叩く。
バタンッ
は……?
またあんただけ、幸せになるの?
償い……
その彼女も、上辺だけで
本当は、わたしと住みたくないって思ってるはず。
数々の男たちみたいに一緒に住んだら、
暴力を振るうなんて目に見えてる。
煌がいなくなった今でも、
煌が教えてくれた愛と幸せがあるから、
この世界で生きていける……
シンと静まる部屋、ドアの前には兄の名刺。
兄の名刺を破ろうとした。
…………破れなかった。
兄の全てが偽りだと
どうしても思えなかったから。
確かに
夜のことは今でも嫌いだ、大嫌いだ。
憎むほど恨めしい存在であることには間違いない。
でもさ
わたしの心の弱さなのか
全てを憎悪でまとめることができなかったんだ。
煌に会いたい………
蛍や翔陽、にろ先輩たち……
あの温かな人たちに会いたいよ…………。
その日は、涙を流しながら眠った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。