第38話

第36段
1,310
2022/06/11 12:32
昼間だと目立ってしまうので、捜索は夜にしていました
『…ねえ、虎刺さん』
虎刺「なんだァ?」
『私って、弱いですか?誰も助けられなくて、すぐクヨクヨして、過去のことばかり考えて……』
虎刺「………」
虎刺「バーーカ」
『!!』
虎刺「弱いに決まってんだろうがコノヤロー。そもそも強いやつは他のやつにそんな質問はしねェ。世の中舐めてんじゃねェぞおガキ様がよォ」
『っ……ごめんなさい』
虎刺「……過去に囚われてるっていうんなら、俺が吸収してやってもいいぜ」
『使い魔って、そんなこともできるんですか?』
虎刺「そうだな。ただ厳密に言うならこれは俺の無意識的能力____固有能力と言うべきかな。主人が神になればあらゆる力を使いこなせるように、俺は囚われた過去を吸収して忘れさせることができる」
囚われた過去
虎われた過去
『____いいです。私は、前に進むだけですから』
虎刺「………」
『………それより、あなたの札はどこにあるんですか?』
虎刺「あ?ああ、わからねえ」
『わからないって……』
虎刺「わからねェから、探してんだろーが。大抵のことは予知能力者なんて奴が現れねェ限り、何もわからねェんだよ」
虎刺「何がよかったとかこれが間違ってたとか、そんな後悔する暇あンなら、全部未来で活かせって話なんだよバカヤロー」
『……虎刺さんって、先生みたいですね』
虎刺「バーカ。俺は生まれた時から化け物だよ」
『思わなかったんですか?人間になってみたいって』
虎刺「思わなかったね。人間の願いを聞いてたって、いいことばかりじゃねェんだ。」
『……そうなんですね』
それは、虎刺さんならぬ言葉というか、虎刺さんらしくない言葉でした。まあ、人には人の事情がある、と言いますしね。いえ、この場合は虎と言い換えるべきでしょうか。
虎刺「範囲ならわかるぜ」
虎刺さんは突然、そう言いました。
『え?』
虎刺「札を最後に見た場所があるんだ。だがもう何百年も前の話だからなァ。その場所さえあるかどうかわからねェ」
『その場所って、どこなんですか?』
虎刺「中国だ」
『中国!??』
行ったことないよ!!
『中国って、なんで……』
虎刺「中国の四神獣の話は知ってるか?」
『____それって、たしか、青龍と玄武と朱雀と____あ』
そうだ、白虎がいる
白い虎____
まさに、虎刺さんだ
『虎刺さんって、まさか…』
虎刺「あれだな、主人の国で人気だったモンスターを集めて探索するゲェムつったか?緑属性と水属性と火属性と闇属性のそれぞれの伝説のモンスターが勢揃いしたその一種、なんていえばわかるか?」
『わかりやすいくらいにわかります。ですが、なぜあなたのような方が____それに、仲間の方はどちらにいるのです?』
虎刺「まァいろいろあったらしいんだよ。今は俺1人で行動してるっつゥことだ」
『____え?“あったらしい”って……』
虎刺「言ったろ、俺は囚われた過去を吸収して忘却させる虎刺。きっと俺自身の過去も吸収して忘れちまったんだろうなァ。忘れちまったってことは、それはつまり、忘れたいくらいウンザリして憎くて悔しくてたまらないことだったんだろうなァ。今の俺にはよくわからねェ」
『____………』
ウンザリして、憎くて、悔しい____
虎刺「同情ならいらねェ。同情なんて言葉は存在しちゃいけねェんだよ。だって、誰だって同じ気持ちになるとは限らねェだろ。誰だって同じ人生を歩むとは限らねェだろ。いつだって別れはやってくるんだぜ。いつだって人って奴ァ裏切るんだぜ」
『………私も、同情が嫌いです。厳密に言うのなら、同情されるのが嫌いなんじゃなくて、同情するのが嫌いなんです。人に合わせることも、人の意見に従うことも、嫌いなんです。』
同情なんかじゃない。私は初めて、本音を打ち明けました。
自分を卑下するような言い方をすれば、私は鬼灯様のような行動力がなく、白澤様のようなおおらかさがなく、シロさんのようなポジティブな思考もなく、リュウクさんのような誰かを笑顔にさせるような光さえ持っていません。
私が持っているのは、陰なのです。ただ逃げることしかできない陰だけなのです。
『それにしても、私はどうやって中国に向かえばいいのです?そもそも仕事を休むわけにはいかないですし…』
虎刺「バーカ。まずは情報集めだろーが。ありとあらゆる資料館巡るんだよ」
『長い道のりになりそうです…』
虎刺「ご主人は、人生で近道したことあるか?」
『え?……ないです』
虎刺「ああ、そうだ。そもそも近道なんて方法がねェからな。それと同じだ。遠回りすればするほど、面倒で疲れて飽きるが、無駄じゃない」
『____…』
『____うん。たしかにそうだね』

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