第37話

第35段
1,392
2022/06/07 07:36
古里あなた、14歳
今更ながらなのですが、死んでいます
私は今、地獄の誰も近寄らないような森の中を歩いて、一面彼岸花の花畑にいます
なんだか全てがどうでもよくなったような、だけどどこか心がスッキリしたような、曖昧な気持ちに惑わされながらも、古里あなたは、決心します
古里あなたは、神になると。
カイソウ
えっと、あの頃は確か、旅行で白澤様と気まずい雰囲気になったあとでした。
古里あなたは、いつものように罪悪感を抱えていました。今となっては、どうしてどうでもいい赤の他人の、しかももう死んでしまっていた魂のことをあんなに気にしていたのか、自分でもよくわかりません。
だけどただ1つ、この時にわかっていたのは、私が虎に会っていたことだけでした
あの時は本当にビックリしましたね、本当に。急いで部屋に逃げたのにも関わらず、いつも私の目の前にいたのですから。
?「おいおい、逃げるこたァねえだろバーカ」
『だ、だって、こんなこと……って、なんで私の部屋に入ってきてるんですか!?』
?「そりゃァ、俺があなたチャンの使い魔だからだなァ。そもそもお前逃げてんじゃねーぞアホ」
これのどこが使い魔なのでしょうか
?「覚えてねェか?あなたチャンよォ」
『前に私と、会ったことあるんですか?』
?「あん?何を質問するかと思えば、バカみてェな質問だなァ。会ったことがある以前に、俺たちはいつも一心同体だっじゃねェかコノヤロー」
いやはや、本当に記憶がなかったのです
この時の私は、本当にバカでした
虎刺「俺ァ虎刺ありどおし。見ての通り虎だ。お前に会いにきたのは、お前に話があったから会いにきたんだぜ」
『話って……』
虎刺「神になれ」
『唐突すぎません?!』
虎刺「“雲は竜に従い、風は虎に従う”なんて言われてるように、虎は神に仕えるんだぜェ。しかしよォ、お前の婆さんにゃァもうそんな力は残ってない、神がいないまま荒んだ神社になんぞ、俺様はいるわけにゃァいかねェんだ」
『……でも、それにしたって、あなた…力はそこまでなさそうですけど…』
虎刺「ああ。だからあなたチャンには、札を探して欲しい」
『札…?』
虎刺「ああ。俺にゃァ今力がねェ。お前さんが良ければ神にさせてやる。お前さんが神になるからこそ俺の存在価値もある」
虎刺「もしもあなたチャンがそうしてくれるって言うんなら、なんでも願い事を叶えてやるさ」
『願い事を…なんでも…?そんなことできるんですか?』
虎刺「バーカ。俺ァ仮にも使い魔なんだぜコノヤロー。それくらい造作もねェ」
『………』
得することなんて、何もないと、その時の私は思ってました
今の生活に、これ以上望むものなんてないと思っていたからです
しかし、虎刺さんはいいました
虎刺「これから先、罪悪感を背負って永遠にあの世で生活するのと、神となって転生し新たに人々を救う者となるのと、どちらがいいと思う?」
『………』
ダメだ、こんな言葉に惑わされちゃ。だって私は、シロさんに元気付けてもらったじゃないですか。何を今更、裏切るなんてことを
虎刺「いやいや、裏切るとは違うぜ。お前さんの事情はお前さんだけのもので、誰かが誰かを助けることなんて誰にもできない。だからお前さんは誰も助けられなかった。しかし神になれば違う。なんでも願いを叶えてやれるし、誰だって助けることができ、悪を罰することができる」
『………』
虎刺「これは裏切りではなく、生まれ変わりだ」
悪魔のようでした。悪魔のように、都合のいいことだけを私に認識させようとしていたのです
『……私には、まだよくわかりません。けれど、あなたの札を探すのはお手伝いします。神社を守ってくれたあなたを、私は見捨てるわけにはいきませんから』
虎刺「気の利く嬢チャンだ」
それから、お香さんに夕食の準備ができたからと声をかけられて、私はバイキング会場へ向かいました。
“いただきます”
手を揃えてそう言って、私は箸を手に取りました。ソワソワしながら食べました。
『……………』
桃太郎「あれ、あなた様」
『!!!』
桃太郎「そのブレスレット、持ってましたっけ?」
『あの……これは……』
どうしましょう、どうしましょう…
『……売店で、買ったんです』
桃太郎「よくお似合いですよ」
『…ありがとうございます』
“バーカ”
『!!』
“誤魔化し方が下手くそなんだよコノヤロー”
『誤魔化し方なんて、わかるわけないでしょ』
“あん?嘘をついちまえばいいじゃねェか”
『嘘なんて……私にはつけません……』
“ウッシシ。偽善者だなァ”
『…』
そうなんです。
私は、偽善者なのです。

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