勇我の好きな人は私じゃない。
頭ではわかってるつもりだったけど…
実際に見ちゃうとなぁ…
思い知らされる。
「っ…ひっく…」
なんで…。
なんで止まらないの。
こらえてるのに。
ここ、学校だよ?
都合のいいことに、お昼休みである今、廊下に出てる生徒は少ない。
ほとんどの生徒は学食に行ってるかお弁当を教室で食べている時間。
その中でも何人か廊下を歩いてる生徒もいて…
注目の的。
恥ずかしい。
なるべく下を向いて歩いてるけどさ。
やっぱ泣いてるってわかるよね…。
でも止まんないんだもん。
どーすればいい?
「ちょ、あなた!?」
急に手を引かれる。
「!?」
そして次の一瞬で私は部屋の中にいた。
「…な、なに…?」
頭がごちゃごちゃで何もわからない。
ただ分かるのは…
目の前にいるのが怜我くんってこと。
「どーしたの!?」
「えっ…」
怜我くんの勢いに圧倒されて言葉が出ない。
「あの…まずここは…?」
私は涙を拭きながら言った。
状況が掴めてない。
おかげで涙も引っ込んじゃったよ。
「あー…
なんだろ、言うなれば“秘密の部屋”?」
「・・・。」
秘密の…部屋?
「オレたち愛徳家しか知らない部屋。
経営者が父さんだからね、なんか作ったらしいよ。」
え。
そんなことできちゃうんだ、理事長って…。
「なんか泣いてたから連れてきちゃった。
だいぶ目立ってたから。」
…やっぱり。
ですよね、目立ちますよねぇ…。
「ごめんねっ、ありがとう…。」
助かったよ。
泣いてるの見られるの恥ずかしいし。
「それで?
なんで泣いてたの?」
ぐ。
誰かに聞きたい。
どうすればいいのって。
このモヤモヤを晴らしたい。
だけど…
怜我くんだよ?
兄妹だよ?
どう思う?
自分の妹が、自分の双子の兄弟のこと好きだって言ったら。
きっと固まっちゃう。
きっと引かれちゃう。
困らせるだけ。
「あ…いや、別にね?
言いにくかったらいいんだけど…。」
悩む私に怜我くんはそう言ってくれた。
「…ここ自由に使って?
一人になりたい時とか、ホント、自由に。
じゃあオレ、行くね?」
くるっと向き直って怜我くんはドアノブに手をかけた。
「あ、待ってっ!」
ぎゅっと怜我くんの制服の裾をつかむ。
「あのね…ー」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。