「あまっ…」
キッチンで鼻歌を歌いながら楽しく料理している私、あなた。
ちょうど型から外したチョコに手を伸ばして食べたのは…
「…勇我(ゆうが)っ!!」
私の兄。
もう、勝手にー!!
「甘すぎんだろこれ…
誰が食べんだよこんなの。」
むかっ。
勝手に食べといて文句!?
それに、“こんなの”ですってー!?
「勇我には関係ないでしょーっ!」
キッと睨みつける。
「はぁっ?
アドバイスしてやってんのー、感謝しろ。」
「別に勇我のアドバイスとかいらない!!
…それに、湊は甘党だし。」
「ミナト…?」
「あ。」
やば…
心の中で言ったつもりが、口に出てたみたい。
「へーぇ、ミナトっていうんだぁ、あなたの好きな奴。
同じクラス?」
ニヤ、と勇我が不敵な笑みを見せる。
…。
実を言うと、湊のことは別に好きではない。
欲しいって言われたから作ってるだけ。
でも…
「ゆ、勇我には絶対に教えない!!」
誤魔化しておく。
その方が、私も…ラクだから…。
「…なんだよ、つまんねぇな。
つか、バレンタインって1ヶ月も先だろ?」
頭を掻きながら勇我が言う。
「いいのっ、練習だもん!」
それに、他にも渡す人いるし。
「へぇ…?
そーだ、オレがどんな男か見定めに行ってやる。」
「ちょ、余計なことしないで!!
教室にも来ないで!」
私はムキになって叫んだ。
「友達に何も、私たちのこと…言ってないんだから…。」
来られたら迷惑以外の何物でもない。
勇我ははぁ、とため息をついて言った。
「は、別に誰も疑わねぇだろ。
第一、あなたは元のままだし。」
「そうだけど…」
私たちの秘密。
バレちゃいけない秘密。
私たちの、事情。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。