引越し作業を終えて、お昼ご飯を一緒に食べて、家が少し賑やかになった。
理事長、気さくだし優しいし面白いし…
まだ違和感はあるけど、これから普通の親子として接していけそうって思った。
あの人なら…理事長ならいいよ。
私はそう思う。
天国のお父さんも、笑顔でそう言ってくれると思う。
お父さん…
そっかぁ、お父さんかぁ…。
なんとなくもう呼べちゃう気がしてる。
理事長のこと、“お父さん”って。
夜7時前、リビングに行くと直哉くんと歩夢くん、咲久くんがテレビを見ていた。
そしてお母さんとお父さんが仲良く料理をしてる。
なんか若いカップルみたい。
ふたりがイチャイチャしてるのは新鮮で、見てるこっちが恥ずかしい。
変な感じ〜…。
「ねぇ、あなた。
そろそろ出来るから勇我くんと怜我くん、呼んできてくれる?」
「あ、うん。」
ってなわけで、また2階へ。
…それにしても、今日は疲れたぁ。
六人分の荷物を運び込んだんだもんね…。
ーコンコンッ
怜我くんと勇我の部屋をノックする。
勇我。
あんな意地悪な人に“くん”なんて付ける必要ないもんねっ!
ガチャ、とドアが開いて怜我くんが顔を出す。
「お、あなたっ。
どーしたの?」
今まで全然知らなかったけど…
優しいのは勇我じゃなくて怜我くんの方なんじゃ…
「あ、夜ご飯できたよって…」
「りょうかーい。
ありがとねっ。」
笑顔でお礼を言ってくれる怜我くんとダルそうにベッドから降りてくる勇我。
しかもおっきなあくびまでしちゃって…。
双子ってこうも違うもの…?
私は軽く勇我を睨みつけた。
「どうしたの、なんか顔怖いけど…?」
怜我くんが不思議そうに聞く。
顔が怖いのは勇我のせい。
学校で見てた、私の好きな勇我じゃない。
家での勇我は優しくない。
「勇我ってさ…」
わなわなと手が震える。
そして強い眼差しを向けて言った。
「すんごい意地悪だよねっ!」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。