「あ、そうだ。」
スープが運ばれて来た時、理事長が私の方を見て言った。
「家にいる時は私のことは理事長だとは思わないで欲しいんだ。
そういう堅苦しい関係は嫌だし、むしろ本当の家族の様に接していきたいと思ってる。
だから…気を遣わないで、敬語じゃなくて親子のような関係を築こう。」
「は…う、うんっ…」
…り…お父さん…。
まだ呼びなれないや。
いきなりは難しいなぁ…。
そんな私の気持ちを汲んでくれたのか、ゆっくり慣れていけばいいから、と言ってくれた。
お母さんの言ってた通り、優しい人みたい。
よかった。
お母さん、厳しいとかいうから、怖い人なのかと…
それに最初あった怒りはいつのまにか鎮まっていた。
だって、あんな幸せそうなお母さん、久しぶりに見たんだもん。
夫婦並んで、たのしそうに話してる。
お父さんが死んでから、毎日忙しそうにしてたお母さん。
朝、私が起きた時にはもうお母さんは仕事に出ていて、帰りも9時とか10時とかで遅い。
仕事漬けでいつも疲れた顔してたお母さんが、見たことないくらいの笑顔を見せてるんだもん。
「あ、あのさっ…」
私も、せっかくだから見んなと仲良くなりたい。
そう思って、向かいに座ってる怜我くんに声をかけた。
「怜我くんと勇我くんって、双子なんだよね??
さっきから思ってたんだけど…あんまり似てないよね?」
って、やっぱダメ…勇我くんの顔見れない…。
なんか話すの緊張しちゃう。
「あぁ、それよく言われるーっ。
オレたち二卵生だからさ。」
ははっと笑って答える怜我くん。
「そうだったんだ!」
「あと、“くん”って付けなくていいからね?
兄弟なんだし、呼び捨てでいいよ。
オレたちもみんな、あなたって呼ぶからさ!」
怜我くん…
みんな優しいなぁ…
「ねぇー、あなたねぇちゃぁん」
隣の咲久くんが言う。
お、私の名前に姉ちゃんが付いた!
姉弟って認めてくれてるんだって、それだけで嬉しくなる。
「どーした??」
「明日遊ぼ!!」
「えっ…」
明日っ!
明日って…
「んー、夜なら遊べるかもな〜」
直哉くんがそう言いながらパンをちぎる。
「ほんと!?」
咲久くんが目を輝かせる。
か、可愛い…。
「うんっ!
私たち、明日から一緒に住むんだよ〜っ!」
家にこんなに人いたらすごく賑やかになるんだろうなぁ…
あ、でも…
「ねぇお母さん、家にそんなスペースあった??
一人一部屋持ったらそんな部屋数なくない??」
私の家はごく普通。
二階建て、一応地下にも部屋があるけど、そこは物置代わりだし…
確かに、私とお母さんの二人で暮らすには広すぎるかもしれない。
現に空き部屋いくつかあるし…。
それにしたって8人で暮らすには…
「いや、一人一部屋はいらないから大丈夫だよ。
今でも勇我と怜我、直哉と歩夢と咲久で一部屋ずつだからね。
二部屋あれば十分だよ。」
理事長が説明してくれる。
「そうなんだ…」
そっか、何人かで同じ部屋なんだ…。
いいなぁ…。
寝る時にひとりじゃないって寂しくなくていいよね。
ってか、みんな私の家に!?
だったら私とお母さんが勇我くんたちの家の方に住んだ方が楽なんじゃ…。
そうやって不安と楽しみが入り交じった気持ちで食事を終えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。