「あなたさんって…キミ?」
勇我くんが私に紙を見せる。
コクっと私は頷いた。
『放課後、中庭のベンチに来てください。あなた』
そう書いた紙を、勇我くんの下駄箱の中に入れておいた。
彼が持っていたのはその紙。
ドキドキ、緊張してる。
どうしたの、と言わんばかりに勇我くんは私を見ている。
早く、言わないと。
「…好きです。」
初めての告白。
とにかく緊張した。
緊張しすぎて、顔を見れなかった。
「前から…勇我くんのことが好きでした。」
言っちゃったらもう後戻りはできない。
逃げたい気持ちでいっぱいだった。
だって、分かってた。
「ごめん。」
振られちゃうってこと。
勇我くんは静かに言った。
「オレ、あなたさんのことよく知らないから。」
ーそんな淡白な振られ方だった。
そりゃそうだよ。
私、一目惚れしちゃったんだから。
話したこともない、最初は名前も知らなかった。
3ヶ月くらいの片想い。
でも、勇我くんの会長立候補演説を聞いた時に、顔と名前が一致した。
だから、告白した。
振られるのは分かってた。
なんで告白したんだろうね、私。
今思えば軽率だけど、その時は、2週間前の私は、想いを伝えたくて、伝えるだけで十分で…
私の存在を知って欲しくて…
その一心だったんだと思う。
まさか、兄妹になるなんて、思ってもみなかったから。
「ん?
どうした、2人とも固まって。」
理事長が私たちを交互に見て言う。
そこ…あまり突っ込まないでください…。
「いや、久しぶりだなぁと思って。
1年の頃、少し話したことがあって。」
「!」
驚いて勇我くんの方を向く。
私たち、はじめへ話したのがあの告白の時なのに…。
「そうか、なら良かった!
これから兄弟になるんだし、仲良くな!」
理事長が笑いながら言った。
「は、はいっ…!」
うぅ…。
先が思いやられる〜…。
それにしても…今は、勇我くんのウソに助けられた。
よくあんな笑顔でウソが…。
「勇我、直哉たちは?」
「あ、もうすぐ来るよ。
怜我がトイレ連れてってる。」
直哉…?
たち…?
怜我…?
ーガチャ
私が違和感を持ったとき、ドアが開いて男の子が入ってきた。
1、2、3、4。
えっ…。
なに、五人兄弟!?
多くない!?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!